■ロスの定理(その16)

 平方根のディオファントス近似における「ディリクレの定理」すなわち,近似分数列{an/bn}で非常によく近似できる実数αについて

  |α−an/bn|<1/bn^2

が成立するならばαは無理数である(右辺はこの定数倍でもよい).これは無理数が無限に多くの既約分数解{an/bn}をもつことを示している.

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【1】ディリクレの定理の証明

 αが有理数で,α=p/qと表されたとする.{bn}は次々に大きくなる整数列であるから,q<bnである番号をとると

  |α−an/bn|=|p/q−an/bn|=|pbn−qan|/qbn

 しかし,an/bnはαとは一致しないので分子は1以上.したがって

  |α−an/bn|≧1/qbn

であるが,これが<1/bn^2なのでq>bnとなり矛盾.すなわち,αは有理数ではあり得ないことになる.

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 このように,「ディリクレの定理」の証明は,引き出し論法あるいは鳩の巣原理と呼ばれるものから容易に導かれる.この原理はn個の巣箱にn+1羽の鳩が入っているならば,ある巣箱には少なくとも2羽の鳩が入っていなければならないというものである.

 xの小数部分x−[x]を{x}と書くことにすると,0≦{x}<1である.ここでq+1個の数,0,1,{α},{2α},・・・,{(q−1)α}を考えると,これらの数はすべて区間[0,1]に属する.

 区間[0,1]をq個の互いに交わらないながさ1/qの小区間に分割すれば,q+1個の数のうちの2個は同じ小区間に入ることになる.その2数の差はbnα−anで,また,0<bn<qであるから,|bnα−an|≦1/qが成り立つ.

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