■わか闘争・2016

 私が数学を始めたのは35才のときだった.以来,平日・休日に関係なく,年中無休で愚直に数学に時間を費やしてきた.日曜日だけでも3年が経ったことになる.

 2008年だったか2009年だったか記憶は定かではないが,高次元多面体についてのある公式を発見した.幾何学の本場であるロシアにおいても高次元幾何学を専門としている研究者はいないという.高次元空間は直観が効かないからであろう.

 実のところ,そのとき発見した高次元多面体公式は不完全なもので,公式があてはまるものとあてはまらないものが50:50であった.公式を完全なものにするまで,さらに2〜3年の歳月を要した.いまはさらなる発展形が得られていて,これまでわからなかったことが簡単に計算できるようになっている.そして,今年の国際学会でこれまでの研究成果を発表することができた.

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 毎年,年末には1年間に書いた数学コラムを読み直して,振り返って総括を行っているのであるが,今年はパソコンが壊れたので,それができずに困っている.しかし,端的にいってしまえばそれは「コクセター・ディンキン図形」との闘いの1年といえる.

[1]一般に,コクセター・ディンキン図形は対称性を表すパネル・ヒンジグラフと解釈されている.すなわち,基本単体を構成する超平面(パネル)と二面角(ヒンジ)の関係を表している.

[2]コクセター・ディンキン図形は,多面体幾何学的にシュレーフリ記号と完全に一致するので,つまらない図形と思われている節がある.さらに,コンピュータにインプリメントするのに,コクセター・ディンキン図形は不便であり,シュレーフリ記号の方が利用価値が高い.

[3]しかしながら,コクセター・ディンキン図形にはパネル・ヒンジグラフ以外にいくつかの解釈が可能である.

[4]パネル・ヒンジは,それぞれ基本単体のファセットとn−1次元面に対応しているが,パネルをその対蹠点にある頂点に対応させることができる.実は,この解釈がワイソフ記号のベースとなり,奥深さを与えてくれる.

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 高次元空間は直観が効かないからであろうが,高次元幾何学では,21世紀にいるわれわれが往時の文献の誤りを見つけたり,修正したり,新たな解釈を与えることが問われる.

 つまり,その批判から始めなければならないのであるが,重要なことはわれわれがどれだけ賢いかを考えてほくそえむことではない.むしろある分野の先駆者でさえもつまづき得るということを理解するすることが重要である.

 往時のあるまとまった考えが,今日のわれわれが考えているほど単純ではなく,それらがまだ新しかったころの概念構成にどう取り組んだかを今日的な視点でよく考えることである.

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