■直観幾何学研究会2025(その17)
高校生に準正多面体の頂点数・辺数・面数の数え上げの講義をした体験レポート
そこは神奈川県内の進学校で、対象としたのは全高校生ではなく数学クラブの生徒である。しかも校内では毎年独自の数学オリンピックを開催しているという。
時間があれば、高校生と一緒にワークショップを行いたかったのであるが、私から高校生への一方通行になってしまったかもしれない・・・。
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【1】正多面体について
正多面体が5種類あること・たとえば正12面体と正20面体は双対関係にあることなどはよく知っていた。しかし、私が美しいと思うアリスタイオスの定理「正12面体と正20面体が同一の球に内接するとき、正12面体の5角形と正20面体の3角形は同じ円に内接する」については、先生も見聞きしたことがあるかも? 記憶に残っていないが、計算すればわかるという感想であった。しかしこの定理は紀元前320年頃に成立しているから、計算してはならない定理なのである。(あとで計算によらない証明を提示した)。
オイラーの多面体定理についても既知であって、中学などでオイラーの多面体定理が成り立つことを実際に確かめたことがあるとのことであった。
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【2】準正多面体について
13種類あるが、切頂20面体でオイラーの多面体定理: 60-90+32=2が成り立つことを実際に確かめた生徒はいなかった。それより簡単な切頂8面体と立方八面体の面数数え上げを行い、それぞれ、24-36+14=2,12-24+14=2とオイラーの多面体定理が成立することを確かめた。
この数え上げは行列表現することができる。先生の感想は準正多面体についても、行列の計算を組み入れることで、頂点、辺、面の数を数えることなく求めることができると知り、感動したというものだった。反面、生徒には未履修の壁が立ちはだかった。行列が何を表現するものなのか理解できないのである。
しまったと思ったのであるが、例えば、日常的な問題:ミカン1個50円、リンゴ1個100円。ミカン5個、リンゴ3個の値段は?では誰でも50x5+100x3=550円と答えることができるだろう。すなわち、対応する数値同士を掛け合わせて、足し上げることで面数の数え上げが可能であることを確認してもらった。
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【3】コクセター・ディンキン図
ここからは多面体の実物を見ない代わりに、そのグラフ表現(コクセター・ディンキン図)を与えて、面数数え上げにチャレンジしてもらった。生徒の感想は多面体を点や線で表わす記号を用いた数学表現がとても新鮮というものであったが、先生はかなり面食らっていたかもしれない。
たとえば、切頂八面体のコクセター・ディンキン図からわかることを列挙すると
正八面体{3,4},f=(6,12,8)の辺の3等分点(1,1,0)を通る切頂を施した準正多面体、切稜は施さない
f=(24,36,14)・・・大域的情報
正方形が6枚、正六角形が8枚
単純多面体(各頂点に3辺・3面)
各頂点に正方形が1枚、正六角形が2枚
[4,6,6] ・・・局所的情報
要素分解して、Coxeter-Dinkin情報を各列に割りつける
補正が必要ものについては、割りつけられた情報を再配置する
この2つの操作により、多面体の面数数え上げを行列表現することができるのである。
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【4】祝杯をあげるにははやすぎる
ところが、準正多面体の中には2つの異端児(ねじれ立方体・ねじれ12面体)がいる。これらはねじり切頂・ねじり切稜を施してつくる必要があり、平行な面を持たない面を生じるのである。
そのため、面数数え上げが難しくなるのだが、不可能というわけではない。ねじれのない小菱形立方八面体・小菱形20/12面体を中間に入れることによって、組み合わせ論的に同値な多面体を作ることができるからである
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