■リーマン計量とテンソル(その3)

 微分幾何は,曲線や曲面,そしてそれらを高次元に一般化した多様体を微積分を使って調べる学問ですが,現代的な意味での微分幾何はガウスに始まります.微分幾何において世界の曲がり具合を表す量が曲率なのですが,それに対して,リーマン計量を使って曲がった世界の性質を調べる学問を「リーマン幾何学」と呼びます.

 

 すなわち,ガウスの微分幾何が3次元空間内の曲面の幾何であるというならば,リーマンの幾何は曲面がユークリッド空間に入っていることを使わずに,第1基本形式から出発する幾何であるといえるのです.

 ガウス曲率は,その後,曲面の内在的量としてリーマン幾何学発展の基礎となりましたが,その際,リーマンの計量(metric)とガウスの曲率(curvature)は表と裏の関係にあったのです.

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【2】接続のホロノミー

 gをリーマン計量として,向き付けられたn次元リーマン多様体M^nがあるとします.Mとgの組(M^n,g)をリーマン多様体といいます.リーマン多様体には対称線形接続(リーマン接続,レビ・チビタ接続)がただひとつ存在します.

 「接続」とは地図のことを考えてみるとよいのですが,たとえば,地球は球面ですが,地図は平面で表現されます.五万分の1の地図と,同じ区域の二万五千分の1の地図四枚を考察すると,それぞれは曲面を平面に変換した地図であり,共有する領域にはある種の変換式がなければなりません.(この変換式が成り立つことが多様体の条件である.)

 リーマン多様体(M^n,g)上の点Pを固定して,点Pを出て点Pに戻る閉曲線を考えます.接ベクトル場Xをこの閉曲線に沿って区分毎に接続していって戻ったものをτXと書くと,このような閉曲線をいろいろとるとき,τは群(Xを平行移動させる群)をなし「ホロノミー群」と呼ばれます.(もっと単純にXをn次元ベクトル,τをn×n行列と考えてもそれほど違いを生じません.)

 すなわち,リーマン計量gからホロノミー群が得られるのですが,この接続は長さを変えません(等長変換)から,ホロノミー群はSO(n)の部分群となります.また,実数ばかりを扱うわけではなく,複素数値であったり,ときには四元数であったりもします.そうなるとホロノミー群は一般にリー群となります.

 接続のホロノミー群はリーマン多様体の曲がり方をリー群を用いて測る尺度といってもよいのですが,ホロノミー群により大域的に平行なテンソル場が定まり,それによりリーマン多様体の(大域微分)幾何構造が定まりますから,ホロノミー群の分類定理は(大域微分)幾何構造のおおまかな分類定理とも考えられます.そして,接続のホロノミーは常微分方程式の幾何学化を含む多くの問題への応用をもっています.

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