■リーマン計量とテンソル(その2)

 微分幾何は,曲線や曲面,そしてそれらを高次元に一般化した多様体を微積分を使って調べる学問ですが,現代的な意味での微分幾何はガウスに始まります.微分幾何において世界の曲がり具合を表す量が曲率なのですが,それに対して,リーマン計量を使って曲がった世界の性質を調べる学問を「リーマン幾何学」と呼びます.

 

 すなわち,ガウスの微分幾何が3次元空間内の曲面の幾何であるというならば,リーマンの幾何は曲面がユークリッド空間に入っていることを使わずに,第1基本形式から出発する幾何であるといえるのです.

 ガウス曲率は,その後,曲面の内在的量としてリーマン幾何学発展の基礎となりましたが,その際,リーマンの計量(metric)とガウスの曲率(curvature)は表と裏の関係にあったのです.

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【1】リーマン計量とは?

 リーマンはゲッチンゲン大学におけるガウスの後任教授ですが,多様体の概念はリーマンに始まります.多様体では,空間が伸びたり縮んだり曲がったりしているわけですから,その際,空間の各点において長さを測るためのモノサシが必要になります.

 どうやって長さを測るかを決めるモノサシが「リーマン計量」なのですが,ピタゴラスの定理を拡張するだけなので,おそるるに足りません.リーマン計量は,誰でも知っているピタゴラスの定理

  (ds)^2=(dx)^2+(dy)^2

のなかに隠されています.ここで,斜辺dsのことを線素と呼びますが,これは測地線(最短曲線)を与える素という意味です.

 この式をもっと詳しく書くと

  (ds)^2=1(dx)^2+0dxdy+0dydx+1(dy)^2

となりますが,これを一般化した

  (ds)^2=g11(dx)^2+g12dxdy+g21dydx+g22(dy)^2

が2次元多様体におけるピタゴラスの定理の本来の姿なのです.

  g21=g12

なので,対称行列Gを

  G=[g11,g12]

    [g12,g22]

とおくと,2次元多様体におけるピタゴラスの定理は行列表現

  (ds)^2=(dx,dy)G(dx,dy)’

のように2次形式で表されます.

 2次元ユークリッド空間,すなわち,平面の座標が碁盤の目になっている場合の計量がユークリッド・リーマン計量で,

  G=[1,0]

    [0,1]

したがって,

  (ds)^2=(dx)^2+(dy)^2

というわけです.

 一般の3次元では,

  G=[g11,g12,g13]

    [g12,g22,g23]

    [g13,g23,g33]

  (ds)^2=(dx,dy,dz)G(dx,dy,dz)’

 曲率,捻率とは違って,これらは接平面上における2次形式

  (dx,dy,dz)G(dx,dy,dz)’

を与えるものであって,曲面の曲がり方を定める「テンソル」と呼ばれる量です.

 平面曲線の曲率はスカラーの値です.空間曲線には曲率の他に捻率(れいりつ)という概念がでてきます.一方,曲面の曲率は「テンソル」となりますが,曲面の曲がり方を測る尺度として,ガウス曲率・平均曲率というような概念もでてきます.スカラー→ベクトル→テンソル,さらに高次元ではスピノル→ツイスターなどが「曲率」を測る尺度になるのです.

 4次元,5次元,10次元(フェルミオンの世界),26次元(ボゾンの世界),・・・,d次元でも同様に表現され,2次形式でアフィン・ベクトル空間に距離が導入されます.なお,対称行列(gij=gji)なので,リーマン計量の独立成分はd^2個ではなく,d(d+1)/2個です.

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