■リーマン計量とテンソル(その1)

古典的な微分幾何学と多様体の微分幾何学の相違を述べてみたい.

 ジェットコースターを考察してみよう.ジェットコースターを外から見て,三次元空間内の曲線と見なすのが古典的な微分幾何学である.一方,ジェットコースターに乗ってこの曲線を解析するのが,多様体論である.その際,ジェットコースターに乗ったときの,重力や恐怖の数式化が曲率などのテンソルとなる.

 「接続」云々は,地図のことを考えてみるとよい.地球は球面であるが,地図は平面で表現される.五万分の1の地図と,同じ区域の二万五千分の1四枚を考察する.それぞれは曲面を平面に変換した地図であり,共有する領域には,ある種の変換式がなければならない.この変換式が成り立つことが多様体の条件である.

===================================

【1】リーマン計量とは?

 リーマンはゲッチンゲン大学におけるガウスの後任教授ですが,多様体の概念はリーマンに始まります.多様体では,空間が伸びたり縮んだり曲がったりしているわけですから,その際,空間の各点において長さを測るためのモノサシが必要になります.

 どうやって長さを測るかを決めるモノサシが「リーマン計量」なのですが,ピタゴラスの定理を拡張するだけなので,おそるるに足りません.リーマン計量は,誰でも知っているピタゴラスの定理

  (ds)^2=(dx)^2+(dy)^2

のなかに隠されています.ここで,斜辺dsのことを線素と呼びますが,これは測地線(最短曲線)を与える素という意味です.

 この式をもっと詳しく書くと

  (ds)^2=1(dx)^2+0dxdy+0dydx+1(dy)^2

となりますが,これを一般化した

  (ds)^2=g11(dx)^2+g12dxdy+g21dydx+g22(dy)^2

が多様体におけるピタゴラスの定理の本来の姿なのです.

  g21=g12

なので,対称行列Gを

  G=[g11,g12]

    [g12,g22]

とおくと,2次元多様体におけるピタゴラスの定理は行列表現

  (ds)^2=(dx,dy)G(dx,dy)’

のように2次形式で表されます.

 2次元ユークリッド空間,すなわち,平面の座標が碁盤の目になっている場合の計量がユークリッド・リーマン計量で,

  G=[1,0]

    [0,1]

したがって,

  (ds)^2=(dx)^2+(dy)^2

というわけです.

 一般の3次元では,

  G=[g11,g12,g13]

    [g12,g22,g23]

    [g13,g23,g33]

  (ds)^2=(dx,dy,dz)G(dx,dy,dz)’

 4次元,5次元,10次元(フェルミオンの世界),26次元(ボゾンの世界),・・・,d次元でも同様に表現されます.なお,対称行列(gij=gji)なので,リーマン計量の独立成分はd^2個ではなく,d(d+1)/2個です.

===================================