■ガウス関数の積分と不等式(その49)
【2】ポアソン分布
2項分布は正規分布で近似されるというのが「ド・モアブル=ラプラスの定理」であることはすでに述べましたが,2項分布において,nが十分大きくpが小さい値をとるならば,それはポアソン分布で近似されます.
(証明)2項分布において,母平均=npを一定の値λに保って,p→0,n→∞にしてみましょう.
2項分布において,p(x+1)/p(x)という比をつくってみると
p(x+1)/p(x)=(n-x)/(x+1)・p/(1-p)
p→0,n→∞であれば,有限のxに対してはp(x+1)/p(x)≒np/(x+1)
また,テイラー展開より,p(0)=(1ーp)^n≒exp(-np)
これらの結果を組み合わせれば,p(x)=(np)^x/x!exp(-np)
したがって,極限では
p(x)=exp(-λ)λ^x/x! x=0,1,2,・・・
になります.これはポアソン分布を示す式にほかなりません.
p→0,n→∞ですから,ポアソン分布とは1回の試行では稀にしか起きない現象の非常に多くの試行での生起回数の分布モデルと解釈できます.
ポアソン分布にはパラメータは1個しかなく,また,ポアソン分布では母平均と母分散が等しくなります(平方根則の根拠).
母平均=λ
母分散=λ
ということは母平均が決まれば分布の形が決まってしまうことを意味しています.平均値が既知の分布はポアソン分布で近似できるのですが,ポアソン分布するデータの取り扱い安さも取り扱い難さもここに端を発しているのです.→教訓「ポアソン分布は母数がひとつしかない独特の分布なのである!」
ポアソン分布は稀に起こる事象に適用されるため,一般にnpが5以下の非対称性のいちじるしい分布がすぐ連想されますが,npがもっと大きい領域にまで利用しても差し支えありません.そして,λが大きくなれば分布の形は次第に対称的な形になり,正規分布に近づきます(ポアソン分布のガウス近似).なお,変動係数の平方は
μ2/μ1^2=1/λ=1/np
というきわめて簡潔な形となります.
[1]稀な現象のモデル分布
時間的・空間的にランダムに起こる事象,たとえば,ある微小面積に落ちる雨滴数や放射性物質からある時間内に放射される放出粒子数などは,いずれもポアソン分布に従う確率変数とみなすことができます.
その際,ある一定の時間Tの間に事象の起こる数を数えることにして,得られた回数をνで表すことにします.この実験で時間Tの間に起こる事象の平均回数に関する最良推定値は観察された回数νですが,その誤差は平方根をとって√νとなります.これを「計数実験についての平方根則」と呼びます.
なお,一定時間内の放射線のカウント数を数える代わりに,あるカウント数に達するまでの時間を測定したら,どのような解析理論が組み立てられるかについては,
粟屋隆「時間測定法による放射能測定データの解析」
に詳しく述べられています.nカウントに達するまでの測定時間は連続量ですから,区間推定の目的にとってはカウント数だけに頼るよりはるかに適していると考えられます.
[2]ポアソン分布の再生性
ポアソン分布する変数の和の分布は平均Σλi,分散Σλiのポアソン分布になります.一方,差の分布は簡単には表せませんが,第1種変形ベッセル関数を用いて
p(x)=exp(-λ1-λ2)(λ1/λ2)^x/2Ix/2(2√(λ1λ2))
で表されます.
歴史を回顧すると,ボルトキュービッツは帝政プロシア軍隊の兵士の中で馬に蹴られて死亡した者の数の分布がポアソン分布でよく近似されること示しました.この事例はポアソン分布が統計学で使われた最初の例ではないかと考えられていて,実際のデータによくあてはまったことからポアソン分布のことを小数の法則と呼びました.
ポアソン過程にしたがう現象の時間間隔は指数分布にしたがうのですが,ポアソン分布からは指数分布やガンマ分布が導出できます.ポアソン分布は連続分布における正規分布と類似の役割をもち,多方面にまたがって応用されています.
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