■ガウス関数の積分と不等式(その10)
【5】レヴィ分布
酔歩モデルの調べるための統計量として,平均初通過時間の概念が導入されます.原点を出発した酔歩者が別の地点(±X)に到達するまでの時間と定義されますが,別の見方をすれば酔歩者が±Xの範囲の中にとどまっていられる平均時間ともいえます.
確率密度関数
f(x)=1/√(2π)x^(-3/2)exp(-1/2x)
は一般的にはfirst passage time distribution of Brownian motionの名称で通っています.しかし,定まった訳語がないため,ここではレヴィ分布と呼ぶことにしました.レヴィ分布は自由度1のχ^2分布の逆数の分布として,あるいは半正規分布(自由度1のχ分布)においてxを1/√(x)とおいて得られます.また,この分布に関しては再生性が成り立ちます.
その期待値E[x^a]はa>=1/2に対して無限大になりますから,コーシー分布と同様に平均値も分散ももちません.レヴィ分布の分散は発散しますが,4分位偏差sに関して
s^(1/2)=s1^(1/2)+s2^(1/2)
が成り立ちます(stable distribution).すなわち,同一の2つのレヴィ分布にしたがう変数の和の分布の4分位偏差は個々の変数の4分位偏差の2倍となることが示されています.
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コーシー分布以外の確率分布では,レヴィ分布が平均値をもたない分布として知られています.
話は少し脱線しますが,2つの正規変数の和の分布は別の正規分布に従います.これを正規分布は加法に関して不変(invariant)であるといいます.このとき,和変数の分散σ^2は個々の変数の分散σ1^2とσ2^2の和と等しくなります.すなわち,
σ^2=σ1^2+σ2^2
です.
正規分布では標準偏差σを4分位偏差sで置き換えても
s^2=s1^2+s2^2
は成立します.加算は2乗の世界(分散)で成立し,1乗の世界(標準偏差)では成立しません.このような加算が成り立つ分布は正規分布が唯一です.
コーシー分布は標準偏差・分散をもたない分布をして知られていますが,quantile(fractile)の存在は保証されます.コーシー分布も加法に関して不変で,コーシー変数の和の分布は再びコーシー分布になります.そして,4分位偏差に関して
s=s1+s2
すなわち,1乗の世界での加算が成り立ちます.
同様にして,レヴィ分布については1/2乗の世界での加算
s^(1/2)=s1^(1/2)+s2^(1/2)
が成り立ちます.以上まとめると
s^k=s1^k+s2^k
k=2 :正規分布
k=1 :コーシー分布
k=1/2:レヴィ分布
となります.
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