■ガウス関数の積分と不等式(その6)
【2】特性関数
 確率変数xが区間(-∞,∞)で定義されているとき,確率密度関数f(x)には次のような簡単な条件が要請されます.
  f(x)≧0
  ∫(-∞,∞)f(x)dx=1
すなわち,確率密度関数は非負であって,積分すると1になる関数です.
 有限区間[a,b]で定義された連続密度関数g(x)に対しても,
  h(x)=1 (a≦x≦b)
  h(x)=0 (xb)
なる関数を導入して,f(x)=g(x)h(x)とすれば上式と同様に確率密度関数を定義できます.関数h(x)はヘビーサイド関数,ディラックのデルタ関数あるいはインパルス関数とも呼ばれます.
 ところで,積率母関数の欠点は,積率をもたないコーシー分布やブラウンノイズ関数などに対しては積率母関数が定義されないということです.そこで,複素関数を導入して
  h(x)=exp(itx)
としたものが特性関数です.
  φ(t)=E[exp(itx)]=∫(-∞,∞)f(x)exp(itx)dx
 フーリエ変換のカーネルはh(x)=exp(-itx)ですから,特性関数は1種のフーリエ変換(+iフーリエ変換)と考えることができます.また,上式において,exp(itx)にオイラーの公式:exp(itx)=cos(tx)+isin(tx)を適用すると,特性関数は次のように表現できます.
  φ(t)=∫(-∞,∞)f(x)cos(tx)dx+i∫(-∞,∞)f(x)sin(tx)dx
 区間(-1/2,1/2)の一様分布の特性関数はsin(t)/t,正規分布N(μ,σ^2)の特性関数はexp(iμt-σ^2t^2/2)となります.また,特性関数はすべての確率分布に対して存在し,コーシー分布の特性関数はexp(iμt-|t|σ)と表されます.
 また,畳み込みのフーリエ変換はフーリエ変換の単なる積になりますから,畳込みの特性関数はそれぞれの分布の特性関数の積
  φx+y(t)=φx(t)*φy(t)
で表されます.前節より,独立な確率変数の和の分布は,合成積
  fn(x)=f1(x)*・・・*f1(x)  (n個の合成積)
で与えられることがわかりましたが,特性関数を用いる
  φ(t)=[φn(t)]^n
となります.
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(例題)特性関数も和の分布を求めるときなど利用されていますが,ここでは,区間(0,1)の一様分布の特性関数が
  φ(t)=exp(it/2)sin(t/2)/(t/2)
となることを利用して,区間(0,1)の一様乱数riをn個合計したものの分布が,n→∞の極限で正規分布になることを示してみましょう.
 一様乱数をn個の合計のしたものの分布の特性関数は
[φ(t)]^n=exp(int/2){sin(t/2)/(t/2)}^n
 一方,シンク関数
  sinx/x=Σ(-1)^mx^2m/(2m+1)!=1−1/3!x^2 +1/5!x^4 −・・・
の解が±π,±2π,±3π,±4π,・・・となることを利用して,無限積表示すると
  sinx/x=(1-x^2/π^2)(1-x^2/4π^2)(1-x^2/9π^2)(1-x^2/16π^2)・・・=Π(1-x^2/k^2π^2)
 kが大きいとき
  (1-x^2/k^2π^2)〜exp(-x^2/k^2π^2)
  Π(1-x^2/k^2π^2)〜exp(-x^2/π^2Σ1/k^2)
ここで,Σ1/k^2=π^2/6より
  Π(1-x^2/k^2π^2)〜exp(-x^2/6)
これより,
  {sin(t/2)/(t/2)}^n→exp(-nt^2/24)
ですから,
  [φ(t)]^n→exp(int/2-nt^2/24)
 正規分布N(μ,σ2)の特性関数はexp(iμt-σ^2t^2/2)ですから,この結果はn個の独立した一様乱数の和の分布は平均値n/2,分散n/12の正規分布に近づくことを示しています(これは一様分布の場合について中心極限定理を示したものです).
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