■ガウス関数の積分と不等式(その5)
【1】確率変数の和の分布
x,yが独立な確率変数でそれぞれ確率密度関数f(x),g(y)をもつとします.このとき,z=x+yの確率密度関数h(z)を求めてみましょう.
やや形式的ではありますが,z=x+y,w=y(x=z-w,y=w)と変数変換して,
(x,y)平面から(z,w)平面の1対1写像を考えてみるとそのヤコビアンは
J=∂(x,y)/∂(z,w)=|∂x/∂z,∂x/∂w|=|1,-1|=1
|∂y/∂z,∂y/∂w| |0, 1|
で与えられます.
dxdy=∂(x,y)/∂(z,w)dzdw
となり,(z,w)の同時確率密度関数p(z,w)は
p(z,w)dzdw=f(x)g(y)dxdy=f(z-w)g(w)∂(x,y)/∂(z,w)dzdw
したがって,
p(z,w)=f(z-w)g(w)
が求める同時確率密度関数となります.
zの確率密度関数は,その周辺分布として与えられますから
h(z)=∫(-∞,∞)f(z-y)g(y)dy
となります.このhをfとgのたたみ込みまたは合成積(convolution)といい,
h(z)=f*g(z)
と書きます.まったく同様に
h(z)=∫(-∞,∞)g(z-x)f(x)dx
ですから,
h(z)=g*f(z)
すなわち,たたみ込みでは交換法則が成り立ちます.たたみ込みの積分計算は難しくなることがありますが,その場合には掛ける順序を入れ替えて計算すると簡単になります.
また,h(z)の累積分布関数H(z)は
H(z)=∫(-∞,z)h(z)dz
=∫(-∞,∞)g(y)dy∫(-∞,z)f(z-x)dz
=∫(-∞,∞)g(y)dy∫(-∞,z-y)f(x)dx
=∫(-∞,z)F(z-x)dG(y)
と表されます.ここで,dG(y)=g(y)dyの関係を利用しました.この場合も,H(z)=F*G(z)=G*F(z)が成り立つことが容易にわかります.
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(例題1)x1,x2,・・・,xnが正規分布N(μ,σ2)にしたがうとき,y=Σxの分布を求めたい.
まず,y=x1+x2の密度関数は
f(x)=1/√2πσexp{-(x-μ)^2/2σ^2}ですから
h(y)=f(x1)*f(x2)=∫(-∞,∞)f(y-x)f(x)dx
=1/2πσ^2∫(-∞,∞)exp(-Q/2σ^2)dx
ここで
Q=(y-x-μ)^2+(x-μ)^2
=2x^2-2yx+(y-μ)^2+μ^2
=2(x-y/2)^2-1/2y^2+(y-μ)^2+μ^2
=2(x-y/2)^2+1/2(y-2μ)^2
h(y)=1/2πσ^2exp{-1/4σ^2(y-2μ)^2}∫(-∞,∞)exp(-(x-y/2)^2/σ^2)dx
h(y)=1/√(2π)√(2)σexp{-1/4σ^2(y-2μ)^2}
となります.これは正規分布N(2μ,2σ^2)に従うことがわかります.
さらに「n個の独立な確率変数の和z=x1+x2+・・・+xnの確率密度関数はn回畳み込みh(z)=f(x1)*f(x2)*・・・*f(xn)である.」から,実際に畳込みを繰り返すことによってy=Σxの分布は正規分布N(nμ,nσ^2)となることが理解されます.すなわち,正規分布の和の分布は再び正規分布となりますが,これを正規分布の再生性といいます.また,このことより,正規分布する母集団から得られた標本平均x=Σxi/nの分布は正規分布N(μ,σ^2/n)であることも理解されます.
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(例題2)さらに,x1,x2,・・・,xnが標準正規分布にしたがう独立な確率変数とすると,y=Σx^2=snの分布は?
自由度1のχ^2分布の確率密度関数をもとに,sn=sn-1+xn2として畳込みTn*T1=Tn+1を繰り返すことで帰納的に求められ,
p(y)=2^(-n/2)/Γ(n/2)y^(n/2-1)exp(-y/2)
となります.これは自由度nのχ^2分布の確率密度関数です.
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(例題3)同様に,指数分布f(x)=λexp(-λ)のn回合成積はアーラン分布となることも帰納法で示すことができます.
f1(x)=λexp(-λ)
f2(x)=integral(0,x)f1(x-t)f1(t)dt=λ2xexp(-λx)
f3(x)=integral(0,x)f2(x-t)f1(t)dt=λ3x^2/2exp(-λx)
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f10(x)=integral(0,x)f9(x-t)f1(t)dt=λ10x^9/9!exp(-λx)
なお,自由度2のχ^2分布は指数分布となり,さらにまたχ^2分布もアーラン分布もガンマ分布の1種です.
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