■学会にて(京大数理解析研,その266)

 1種類の立体による空間充填形がもっと高い次元の立方格子の射影であるというのは本質的に正しい.立方体以外の単一多面体による空間充填体としては,菱形十二面体や切頂八面体がよく知られている.たとえば,切頂八面体には6組の平行な辺があり,6次元立方体の射影と考えることができる.

 同様に,菱形十二面体は4次元立方体を3次元空間に投影したもの,2次元充填図形である正6角形は3次元立方体を2次元平面に投影したもの,4次元空間充填30胞体は10次元立方体を4次元空間に投影したものとなっている.

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【1】菱形多面体の場合

 次に,菱形だけでできている菱形多面体の場合を考えます.菱形のすべての稜は2方向,菱形六面体のすべての稜は3方向,菱形十二面体では4方向,菱形三十面体では6方向を向いているのですが,菱形二十面体では5方向,菱形十二面体(第2種)では4方向を向いています.一般にすべての稜がn方向を向くとき,面数はf=n(n−1)となります.

  f=n(n−1)=2,6,12,20,30,42,56,・・・

  e=2n(n−1)

  v=n(n−1)+2

 これらはn次元立方体を3次元空間に投影したものと考えることができます.菱形30面体は6次元空間における立方体の3次元版,菱形12面体は4次元空間における立方体の3次元版,菱形90面体は合同な菱形だけでできている菱形多面体ではないが,10次元空間における立方体の3次元版に相当するというわけです.

 宮崎興二先生のお話によりますと,菱形90面体は対角線の長さの比が1:τ^2(2.618)の菱形30枚と白銀菱形60枚から構成される美しい形の多面体だそうです.

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【2】黄金菱形多面体による非周期的空間充填

 要素を配置するときの規則によって周期的配置(結晶),乱雑配置,準結晶的配置の3種類に分類されるます.準結晶とは厳密な規則によって配列が一意に決定されるのですが,周期的ではない配置のことを指します.3次元空間の非周期的充填では5種類の黄金平行多面体によるものが知られています.

 ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,対角線の比が白銀比になっている菱形を12個組み合わせてできる菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.

 黄金菱形平行6面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute(扁長菱面体),太めで平たいほうがobtuse(扁平菱面体)と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体(第2種),5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.

 これらはコクセターにより,A6(acute),O6(obtuse),B12(Bilinsky),F20(Fedrov),K30(Kepler)と名づけられていて,それぞれ3次元から6次元までの立方体の投影の外殻になっています.すなわち,黄金平行多面体は5種類あり,黄金菱形をある方向に平行移動させたものがA6,O6であり,それをさらに平行移動させるとB12が,続いてF20が,最後にK30が生まれます.

 したがって,A6とO6は3次元の,B12は4次元の,F20は5次元の,K30は6次元の立方体とそれぞれ同等になります.また,B12の中には2つずつのA6とO6が,F20の中にはひとつのB12と3つずつのA6とO6が(いいかえればF20の中には5つずつのA6とO6が),K30の中にはひとつのF20と5つずつのA6とO6が(いいかえればK30の中には10個ずつのA6とO6が)それぞれ入っていることになります.

 2種類の黄金平行多面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができることは前述したとおりですが,この黄金平行多面体による充填図形の平面への投影はペンローズ・パターンと呼ばれる準周期性平面充填となります.すなわち,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.

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