■学会にて(京大数理解析研,その256)

 ここでは正多角形ばかりでできるという条件を外して,平行多角形のみで構成される多面体,さらに菱形のみで構成される多面体に絞り込んで考えてみることにします.

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【1】ケプラーの発見

 合同な菱形だけでできている多面体を菱形多面体と呼びます(以下ではこの菱形六面体を除いて考えることにします).ケプラーは複合多面体から対角線の比が白銀比になっている菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形三十面体を発見しました.

 ケプラーが2つの菱形多面体を発見したストーリーは,以下のようなものであっただろうと考えられています.双対な2つのプラトン立体をそれぞれの辺が直角に2等分されるように配置します.立方体と正8面体の相貫体は,外側を菱形12面体(直交する対角線の比が1:√2の菱形12面)が,内側には立方8面体(正方形6面+正3角形8面)が入っています.また,正12面体と正20面体の相貫体では,外側を包む立体が菱形30面体(直交する対角線の比が黄金比になっている菱形30面),内側には12・20面体(正5角形12面+正3角形20面)という多面体が内包されているのです.

 すなわち,正多面体とその双対多面体との共通部分(intersection)は,それぞれ立方8面体(6・8面体)と12・20面体であり,また,それぞれ菱形12面体と菱形30面体に内接するというわけです.

 3種類の相貫体−−正4面体と正4面体,立方体と正8面体,正12面体と正20面体−−について調べてみると,それぞれの立体の間に双対関係があり,3種類の相貫体の外側にできる立体と内側にできる立体−−立方体と正8面体,菱形12面体と立方8面体,菱形30面体と12・20面体も互いに双対関係をもっていることがわかります.

 そして,これらもやはり相貫体をつくることができ,そしてまたそこに現れてくる外側と内側の立体も双対関係になっています.頂点と面に関しての双対性にはうまくできているなと感嘆させられます.自然界の法則性,自然が作るきれいな関係の1例といえましょう.

 以上のことから,相貫体における立方体と正八面体の1辺の長さの比は1:√2,正12面体と正20面体の1辺の長さの比は1:φになることがわかります.また,前者では立方体に貼り付ける外四角錐の底辺に対する二面角は54.7357°,後者では正12面体に貼り付ける外五角錐の底辺に対する二面角は37.3774°と計算されます.

 相貫体の見方を逆にして,正八面体に貼り付ける外三角錐の底辺に対する二面角も54.7357°,正20面体に貼り付ける外三角錐の底辺に対する二面角も37.3774°で同じです.底面や側面が違う形であるにも関わらず,底辺に対する二面角が等しいという調和も取れている・・・このことは決して自明のことではなく,双対関係にある正多面体同士のなせるワザなのです.

 次に,ケプラーは雪の結晶が正六角形をしているのはなぜかと考えました・・・『3次元の雪は正六角形(二辺角120°)の形をしている.正六角形は立方体を正六角形状に平面に投影したものと考えられる.したがって,4次元の雪は二面角が120°の立体の形をしているはずである.菱形十二面体の二面角はちょうど120°で,4次元の超立方体を菱形十二面体状に3次元空間内に投影した図となっている』・・・こうしてケプラーは史上初めて菱形12面体を見つけました.ケプラーが菱形十二面体を「4次元の雪」とみなした所以です.

 このように,菱形12面体の二面角は120°であり,平行移動だけで空間内を隙間なく充填することができます(結晶).それに対して,菱形30面体の二面角は144°ですから空間結晶ではなく,5回回転対称性をもつ「準結晶」になっています.

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【2】ケプラー以後

 その後,ケプラーはすべての面が合同な菱形だけでできている菱形多面体は菱形十二面体,菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体(第2種)があります.菱形十二面体,菱形三十面体は球に内接する(外接球をもつ)のですが,菱形二十面体と菱形十二面体(第2種)は球には内接しないものの合同な菱形だけでできている多面体です.

 菱形三十面体からあるゾーン(菱形の連なった帯)を抜き取って押しつぶすと菱形二十面体,菱形二十面体からあるゾーンを抜くと菱形十二面体(第2種)になるので,これらは各面の対角線の長さの比が黄金比の菱形からなる一連の多面体と考えることができます.ケプラーが考えたように菱形多面体には本質的に菱形十二面体(結晶)と菱形三十面体(準結晶)の2つしかないといってもよいのです.

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