■学会にて(京大数理解析研,その250)

【1】ファニャーノの最小周三角形問題

 ある位置からある角度でビリヤードの球を発射させると,何回か壁にあたった後,最初と同じ位置・同じ角度で戻ってくる場合がある.n回壁にあった後,同じ状態に戻る場合をn周期軌道と呼ぶことにすると,与えられたnに対して発射角度を求めるというのがおなじみのビリヤード問題である.

 この問題に対する基本的な考え方は,球を反射させる代わりに,ビリヤード台の鏡像を枠の外に作ってやるというものである.すなわち,軌道自体を折り曲げる代わりに衝突するたびに衝突した辺を軸にビリヤード台自身をひっくり返すのである.

 このような図形を鏡像群と呼べば,鏡像群を貫く直線がビリヤード球の軌跡に対応する.そして,この表示法のもとで長方形の互いに向かい合う辺同士をを同一視するとトーラスが得られる.トーラスの中で長方形ビリヤードの軌道は単純な直線運動で表されることになる.

 一般の三角形ビリヤードの周期性について考えてみよう.鋭角三角形のビリヤード台を考えると,各辺で1回ずつ反射して常に同じ軌道をぐるぐると周り続ける巡回軌道が存在する.また,三角形の内部を2回以上回って最初の点に戻るような巡回軌道は無数に考えられる.

 三角形ビリヤードの場合,球があたる壁を中心として鏡像を貼り付けていくと,6個目の鏡像で最初の三角形を平行移動させたものが登場する.このことは任意の位置から特定の角度でビリヤードの球を発射させると6回壁にあたった後,最初と同じ位置・同じ角度で戻ってくることができることを意味している.

 ちょうど1周で最初の点に戻る巡回軌道はあらゆる巡回軌道のなかで最短のものであって,三角形の各頂点から対辺に下ろした垂線の足を結ぶ「垂足三角形」に限られる.すなわち,垂線の足の位置から他の垂線の足の位置に向けてビリヤードの球を発射させると,3回壁にあたった後,最初と同じ位置・同じ角度で戻ってくるのである.

 三角形の内部を2回以上回って最初の点に戻るような巡回軌道でもこの軌道上の各辺はいずれも垂足三角形の辺と平行である.また,四角形ビリヤードでは,四角形が円に内接し円の中心が四角形の内部にある場合,そのような四角形の内部には巡回軌道が存在しうることが知られている.

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