■学会にて(京大数理解析研,その228)
糸健太郎先生(中部大)ご自身は双曲空間のビリヤード問題を取り上げられた。ここでは双曲空間ではなく、ユークリッド空間のビリヤード問題を解説する。
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ビリヤード球が立方体の内部で各面で1回ずつ反射して,常に同じ軌道をぐるぐると周り続けることは可能だろうか? これは可能であって,そのような有限閉多角形はケーニッヒ・ズクス多角形(K・S多角形)と呼ばれる.
スタインハウスが発見した例は各面を3×3に分割した升目の角をイス型に巡回するもの(1:2の比に対角線を分割する閉六角形)である.4つの側面の中心と底面,上面の対角線を1:3の比に分割する閉八角形も驚くほど簡単な例である.
2つの軌道に共通する特徴は立方体に内接する正四面体の辺上(ケプラーの八角星)を通るということであり,最大認容的開立方体
‖x−c‖∞<1/3
に巻きつく巡回軌道になっている.
(その227)では,K・S多面体
x1=<t>
x2=<s>
x3=<a−t−s> (0<a<1)
の相貫体の表面積はaに依存せず,4√3になることを述べた.今回のコラムでは,閉六角形と閉八角形の2つのK・S多角形の周長が等しいかどうか調べてみることにした.
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【1】閉六角形の巡回軌道
P1(1/3,1/3,1)
P2(2/3,0,2/3)
P3(1,1/3,1/3)
P4(2/3,2/3,0)
P5(1/3,1,1/3)
P6(0,2/3,2/3)
x1=<v1t+a1>
x2=<v2t+a2> (−∞<t<∞)
x3=<v3t+a3>
が閉かつ有限多角形(ケーニッヒ・ズクス多角形,K・S多角形)であるための必要十分条件はv1,v2,v3が3つの有理数に比例していることである.
閉六角形の巡回軌道の場合,
P1P2=(1/3,−1/3,−1/3)
より,初期運動は
x1=1/3t+1/3
x2=−1/3t+1/3
x3=−1/3t+1
tを3tで置き換えて(v1=1,v2=−1,v3=−1)
x1=<t+1/3>
x2=<−t+1/3> (−∞<t<∞)
x3=<−t+1>
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【2】閉八角形の巡回軌道
P1(1/4,3/4,1)
P2(1/2,1,1/2)
P3(3/4,3/4,0)
P4(1,1/2,1/2)
P5(3/4,1/4,1)
P6(1/2,0,1/2)
P7(1/4,1/4,0)
P8(0,1/2,1/2)
また,K・S多角形はtを4tで置き換えて(v1=1,v2=1,v3=−2) x1=<t+1/4>
x2=<t+3/4> (−∞<t<∞)
x3=<−2t+1>
と書くことができる.
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【3】まとめ
閉六角形の巡回軌道の周長は2√3,相貫体を考えると2√3×4=8√3になる.それに対して,閉八角形の巡回軌道の周長は2√6,相貫体を考えると2√6×4=8√6になる.
正方形ビリヤードでは周期軌道の長さは軌道により異なるが,立方体ビリヤードでも同様である.この結果は驚きではない.むしろ,K・S多面体
x1=<t>
x2=<s>
x3=<a−t−s> (0<a<1)
の相貫体の表面積がaに依存せず,4√3になることのほうが驚くに値することなのである.
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