■学会にて(京大数理解析研,その223)
糸健太郎先生(中部大)ご自身は双曲空間のビリヤード問題を取り上げられた。ここでは双曲空間ではなく、ユークリッド空間のビリヤード問題を解説する。
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[Q]縦横が整数比の長方形のビリヤード台がある.1つの隅から球を45°の角度で打ち出すと,何回か跳ね返ってから4隅のうちの1つに達する.このとき跳ね返る回数は?
[A]この問題に対する基本的な考え方は,球を反射させる代わりに,ビリヤード台の鏡像を枠の外に作ってやるというものである.すなわち,軌道自体を折り曲げる代わりに衝突するたびに衝突した辺を軸にビリヤード台自身をひっくり返すのである.このような図形を鏡像群と呼べば,鏡像群を貫く直線がビリヤード球の軌跡に対応し,球の折れ線の路は直線で置き換えられる.
球の経路を求める際に直角二等辺三角形ができるためには,ビリヤード台の縦横の整数比(既約)をp:qとすると,縦方向にq−1回,横方向にp−1回折り返せばよいので,跳ね返る回数はp+q−2回となる.
一般の長方形ビリヤードの周期性について考えると,長方形ビリヤードが周期的となるための条件は軌道方向(tanθ)が有理数であることである.軌道方向が無理数の場合,軌道は非周期的となり軌道が領域を埋めつくす(エルゴード的).それに対し,周期軌道では軌道が領域を埋めつくすことはない.周期軌道は無数に考えられるが,非周期軌道は周期軌道より圧倒的に多数を占めるのである.
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【1】クロネッカー・ワイルの定理
クロネッカーの稠密定理とそれに密接に関連したワイルの一様分布定理により,長方形ビリヤード問題に幾何学的証明を与えることができる.→コラム「無理数・代数的数・超越数(その10)」参照
無理数γを与えたとき,nγの非整数部分{nγ}=nγ−[nγ]のn=1,2,3,・・・としたときの分布について何がいえるであろうか?
nγ=[nγ]+{nγ}
[1]γが有理数であれば{nγ}は有限個の相異なる値しかとらない
(証)γ=p/qならば,この数列の最初の第q項までは
{p/q},{2p/q},・・・,{(q−1)p/q},{qp/q}=0
そして第q+1項は
{(q+1)p/q}={1+p/q}={p/q}
以後,これの繰り返しとなる.
[2]γが無理数であれば{nγ}の値はすべて異なる
(証){n1γ}={n2γ}と仮定する.このとき,(n1−n2)γは整数→γは有理数となり矛盾.
[3]γが無理数であれば{nγ}は区間[0,1]において稠密である(クロネッカーの定理)
[4]γが無理数であれば{nγ}は区間[0,1)において一様分布する(ワイルの定理)
ワイルの規準とは,
『[0,1)内の実数列ξ1,ξ2,・・・が一様分布するには,すべての整数kに対して,N→∞のとき
1/NΣexp(2πikξn)→0
が成立するときに限られる』というものである.
ワイルの規準を用いることにより,以下の結果が示される.
[5]γが無理数であれば{n^2γ}は区間[0,1)で一様分布する
[6]P(x)=cnx^n+cn-1x^n-1+・・・+c1x+c0において,c1,・・・,cnのうち少なくともひとつが無理数であるとすると,{P(n)}は区間[0,1)で一様分布する
[7]sが整数でないならば{an^s}は区間[0,1)で一様分布する
ところが,
[8]{alogn}はいかなるaに対しても一様分布しない
[9]γn={((1+√5)/2)^n}とする.γnは[0,1]で一様分布しない
任意の無理数γを与えたとき,γ^nの非整数部分{γ^n}のn=1,2,3,・・・としたときの分布については,どのようなより強い結果,より深い結果が得られるのであろうか?
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