■中心極限定理と重複対数の法則(その12)

【4】トゥエ・ジーゲル・ロスの定理

 2次の無理数では,ある数cが存在して

  |α−p/q|>c/q^2

がすべての有理数p/qに対して成り立つことが導かれたが,リューヴィルはこのような定理がより一般の任意の代数的無理数に対しても成立することを証明した.

 すなわち,代数的数αの次数をn(≧2)とすると,

  |α−p/q|>c/q^n

がすべての有理数p/qに対して成り立つ(リューヴィルの定理,1844年).

 それでは

  |α−p/q|>c/q^k

がすべての有理数p/qに対して成り立つkはいくつになるのだろうか? この指数kを改良するために多くの研究がなされた.「ロスの定理」は最良のものである.

  k≧n   (リューヴィル,1844)

  k>n/2+1   (トゥエ,1909)

  k>2√n   (ジーゲル,1921)

  k>√(2n)   (ダイソン,ゲルファント,1947)

  k>2   (ロス,1955)

 トゥエ・ジーゲル・ロスの定理はkのある値に対して,cの値が存在することを証明したが,cの値を具体的に定めることはできない.そうではあるが,特別な代数的数に対しては効果的な結果が得られている.たとえば,ベイカーは超幾何関数の性質を用いて,すべての有理数p/qに対して

  |3√2−p/q|>10^-6/q^2.955

が成り立つことを証明した(1964年).n≧3の一般の代数的無理数に対するcの値を具体的に与えられる希望が見えてきたのである.

 超越数の理論から,任意のεに対してc>0が存在して,すべての整数p,q1,・・・qnに対して

  |q1e+・・・+qne^n−p|>cq^(-n-ε)   q=max|qi|

が成り立つが,トゥエ・ジーゲル・ロスの定理を一般化したシュミット(1971年)の研究は,e,・・・,e^nを有理数上1次独立であるような代数的数θ,・・・,θ^nに置き換えても同じことが成り立つことを示している.

  |q1θ+・・・+qnθ^n−p|>cq^(-n-ε)   q=max|qi|

シュミットの拡張は部分空間定理と呼ばれるものである.

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【補】モーデル方程式

 楕円曲線:y^2=x^3+k   (k:整数)

の有理点に関して,たとえば,

k=−2:無限に多くの有理点をもつ

k=1 :(0,±1),(−1,0),(2,±3)以外に有理点をもたない

k=−5:決して有理点をもたない

 整数点に関して,モーデルは2元3次形式の簡約理論とトゥエの定理から整数点は有限個しか存在しないことを証明した.

k=−28:すべての整数解は(4,±6),(8,±22),(37,±255)

k=11 :整数解をもたない

k=−11:すべての整数解は(3,±4),(15,±58)

 モーデルは,この結果を

  y^2=ax^3+bx^2+cx+d

に拡張した.右辺の3次式は異なる零点をもつことから,3次式よりは4次式の簡約に依拠する必要があった.

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