■ランダムウォークの母関数と準超幾何関数(その45)

【2】多次元ランダムウォーク(格子上の確率論)

 引き続いて,1次元格子の代わりに多次元直交格子上の対称単純ランダムウォークを考えてみましょう.時刻0で平面上の原点から出発し,単位時刻ごとに正方格子の上下左右の4つの隣接点に等確率1/4で移動していくのが2次元対称単純ランダムウォーク,立方格子の6つの隣接点に等確率1/6で移動していく粒子の運動が3次元対称単純ランダムウォークです.

 2次元対称単純ランダムウォークで,粒子が時刻2nに原点にいると確率は,4項分布において,それまで上下にそれぞれk回,左右にそれぞれn−k回移動した確率ですから,i+j=nとして

  u2n=1/4^(2n)Σ(2n)!/(i!)^2(j!)^2

    =1/4^(2n)(2nCn)^2

    〜 (πn)^(-1)

 同様に,3次元対称単純ランダムウォークでは,6項分布において,i+j+k=nとして

  u2n=1/6^(2n)Σ(2n)!/(i!)^2(j!)^2(k!)^2

    =2nCn/2^(2n)Σ(n!/3^ni!j!k!)^2

    〜 C/n^(3/2)

 すなわち,2次元の対称単純ランダムウォークは再帰的であるのに対し,3次元対称単純ランダムウォークは非再帰的であるという結果が得られます.

 一般に,d次元対称単純ランダムウォークでは,最近接の2d個の点に等確率1/2dで移動し,n→∞のとき

  Σu2n 〜 2^(1-d)d^(d/2)(πn)^(-d/2)

 したがって,d次元対称単純ランダムウォークは,確率1で出発点に戻れるだろうか? という問いに対しては,n→∞のとき

  u2n 〜 2^(1-d)d^(d/2)(πn)^(-d/2)

ですから,

 a)d≧3のときは非再帰的であって無限の彼方へいってしまう

 b)d=1,2のときは再帰的である(すべての道はローマに通ず)

ということを意味しています.しかし,再帰的とはいっても,いつかは原点に帰るということであって,その戻るまでの時間の期待値は∞です.これを零再帰的と呼び,戻れるとはいっても戻りづらいことがわかります.

 すなわち,1次元・2次元の対称単純ランダムウォークは再帰的(必ず原点に戻ってくる)であるのに対し,3次元になると少し状況が変わってくる.3次元ランダムウォークの場合,たとえ無限に歩き続けたとしても,出発点に戻ってくる確率はおよそ0.34にすぎない.3次元では進める方向が多すぎて,偶然に出発点に戻ってくるのはそう簡単なことではないのである.

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