■ランダムウォークの母関数と準超幾何関数(その41)
【1】拡散過程と正規分布
静かな水面にインクを一滴たらすとインクで染められた部分がどんどん拡散していきますが,この濃度分布は,正規分布
f(x)=1/√2πσexp(-(x-μ)^2/2σ^2)
においてσ^2を時間tに置換した式
p(t,x)=1/(2πt)^(1/2)exp(-(x-μ)^2/t)
であって,p(t,x)は熱伝導の偏微分方程式
dp/dt=1/2・d^2p/dx^2
の基本解にもなっています.
この密度関数はインク分子が一定時間内に移動する距離の確率分布として用いられますが,ここで,1/(2πt)^(1/2)は1次元ブラウン運動,1/(2πt)^(d/2)はd次元ブラウン運動が時刻tのとき原点にいる確率ですから,その定積分値
∫(1,∞)dt/(2πt)^(d/2)
は時刻1から先で原点に滞在する確率と考えられます.この定積分値はd=1,2で∞,d≧3のとき有限であることからも,d次元ブラウン運動の再帰性が導かれます.
正規分布はガウス分布とも呼ばれ,歴史的にはド・モアブルが誤差のモデルとして導き,のちにラプラスとガウスが最小2乗法との関連で,それぞれ同じ曲線を再発見したといわれています.また,観測値の誤差が小さな多数の誤差の素から成り立っているという考え方を最初に示したのは,ヤングであるといわれていますが,ヤングのあとハーゲンらは,この考え方を基礎にして正規分布を,ハーゲンのモデル,すなわち,たくさんの微小量がランダムに組み合わさったときに現れる一般的な誤差の分布関数として導きだしました.また,
p(t,x)=1/(2πt)^(1/2)exp(-(x-μ)^2/t)
からは,ランダムな様子を目に浮かべることは不可能ですが,測定時間は連続量ですから,離散的な2項分布よりも連続的な正規分布にしておくほうが,いろいろな目的にとってはるかに適していると考えられます.
===================================