■ランダムウォークの母関数と準超幾何関数(その36)
【2】もっと精密な積分による評価
ところで,ここまで進んできて,何か物足りない(もどかしい,しっくり来ない)と感じられた方も少なくないものと思われます.なぜなら,上に掲げた再帰性の証明は,不等式による評価をしただけであって,まだ本質をしっかりと掴んだわけではないのです.
そこでまず1次元酔歩について見直してみることにします.xから出発して,x−1,x+1に行く推移確率はそれぞれ1/2ですから,
un+1(x)=1/2{un(x−1)+un(x+1)}
これに着目して,格子空間におけるフーリエ級数展開の方法を適用してみます.θを実変数として,
Qn(θ)=Σun(x)exp(ixθ)
を考えると,
Qn+1(θ)=1/2{exp(iθ)+exp(−iθ)}Qn(θ)
=Qn(θ)cosθ
Qn(θ)=1より,母関数(特性関数)は
Qn(θ)=(cosθ)^n
と簡単な形になります.
母関数から確率un(x)を復元するには,フーリエ逆変換
un(x)=1/2π∫(-π,π)exp(−ixθ)Qn(θ)dθ
するのですが,とくに,x=0のときは
un(0)=1/2π∫(-π,π)(cosθ)^ndθ
となります.ここで,n=0,1,2,・・・について和をとれば
Σu2n=1/2π∫(-π,π)(1−cosθ)^(-1)dθ
が得られます.
2次元格子上の酔歩では,
un+1(x,y)=1/4{un(x−1,y)+un(x+1,y)+un(x,y−1)+un(x,y+1)}
Qn+1(θ)=1/4{exp(iθ)+exp(−iθ)+exp(iφ)+exp(−iφ)}Qn(θ)=Qn(θ)(cosθ+cosφ)/2
これより,
u2n=(1/2π)^2∫(-π,π)∫(-π,π){(cosθ+cosφ)/2}^ndθdφ
Σu2n=(1/2π)^2∫(-π,π)∫(-π,π){1−(cosθ+cosφ)/2}^(-1)dθdφ
まったく同様に,3次元格子上の酔歩では
u2n=(1/2π)^3∫(-π,π)∫(-π,π)∫(-π,π){(cosθ+cosφ+cosψ)/3}^ndθdφdψ
Σu2n=(1/2π)^3∫(-π,π)∫(-π,π)∫(-π,π){1−(cosθ+cosφ+cosψ)/3)}^(-1)dθdφdψ
3次元酔歩の非再帰性を示すには,この積分が確定することがいえればよいのですが,楕円積分を使って,
Σu2n=(2π)^(-3)∫(-π,π)(1−1/3Σcost)^(-1)dt
=(√6/32π^3)Γ(1/24)Γ(5/24)Γ(7/24)Γ(11/24)
=1.51・・・
と評価され,したがって,
Σf2n=(Σu2n−1)/Σu2n=1−1/Σu2n
=0.34・・・
と計算できます.
このように,母関数の方法は極めて有効ですが,一般に,d次元超立方格子上のランダムウォークにおいては,
Σu2n=(2π)^(-d)∫(-π,π)(1-φ(t))^(-1)dt
φ(t)=1/dΣcos(t)
より,
Σu2n=∫(0,∞)exp(-x){I0(x/d)}^ddx
が得られます.したがって,d次元格子上の再帰確率pdは
pd=Σf2n=1−1/Σu2n
=1−[∫(0,∞)exp(-x){I0(x/d)}^ddx]^(-1)
で与えられます.
===================================