■ランダムウォークの母関数と準超幾何関数(その35)
再帰確率に関するポリアの定理(1921年)
「d次元格子に対して,非再帰的となる必要十分条件はd≧3となることである.」
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【1】ポリアの定理
ポリアの定理の証明は,通常,n→∞のときの原点にいる確率の漸近挙動を調べることによって行われます.2nステップのとき,原点にいる確率をu2n,原点への最初の復帰が2n回目に起きるという確率をf2nとすると,求める再帰確率はΣf2nで表されます.
ここで母関数を使った少し込み入った議論が必要になるのですが,母関数の方法の利点は,個々の数列ごとに工夫しなくても,一般項が求まることにあり,有限グラフ上の閉路で,途中で出発点に戻ることのない閉路の数と,何度戻ってもよい閉路の数との間の関係式を求めるという問題になります.
結論だけをいうと,n→∞のとき,
Σf2n=(Σu2n−1)/Σu2n=1−1/Σu2n
が成り立ちます.Σu2n=∞のときにはΣf2n=1,すなわち,ランダムウォークは再帰的,また,Σu2n<∞のときにはΣf2n<1で非再帰的となります.そこで,Σu2nの値を求めてみることにします.
1次元酔歩の場合,
u2n=2nCn/2^(2n) 〜 (πn)^(-1/2)
Σu2n=∞(再帰的)
2次元酔歩の場合,
u2n=1/4^(2n)(2nCn)^2 〜 (πn)^(-1)
Σu2n=∞(再帰的)
それに対して,3次元酔歩では
u2n=cn^(-3/2) 〜 (πn)^(-3/2)
Σu2n<∞(非再帰的)
よって,3次元酔歩は非再帰的.同様にして,4次元以上の酔歩は
u2n 〜 (πn)^(-d/2)
Σu2n<∞(非再帰的)
より非再帰的であることが示されます.
以上をまとめると,
格子の次元 (1,2) (3,4,5,6,・・・)
酔歩 再帰的 非再帰的
2次元格子であれば,正方格子に限らず,三角格子,六角格子,カゴメ格子でも再帰的ですし,3次元格子では単純立方格子以外の体心立方格子,面心立方格子,ダイヤモンド格子でも非再帰的です.
正方格子 u2n 〜 (πn)^(-1)
三角格子 u2n 〜 √3/2(πn)^(-1)
六角格子 u2n 〜 3√3/2(πn)^(-1)
カゴメ格子 u2n 〜 2√3/3(πn)^(-1)
これらは,酔歩の推移確率行列から導き出されます.詳細については志賀徳造「ルベーグ積分から確率論」共立出版を参照して頂きたいのですが,ここで,非再帰的というのは,決して原点に戻れないということではなく,いつまでたっても(たとえ寿命が∞であっても)原点に戻れない確率が正であるという意味なのです.
一方,2次元酔歩は再帰的確率1で原点に戻れるが,再帰時間の期待値は∞であり,もし寿命が∞であれば原点に戻れるという意味ですが,2次元でも非ユークリッド空間で曲率が負の場合,酔歩は非再帰的になることが知られています.
また,d≧3の斉次型ツリー(ベーテ格子)上における酔歩は,0を反射壁とする
p=(d−1)/d
の1次元非対称ランダムウォークに一致しているため,
u2n 〜 (d(d-1)/√π(d-2)^2)(4(d-1)/d^2)^n・n^(-3/2)
〜 C・R^2n・n^(-3/2) R=2√(d-1)/d
したがって,d≧3に対してR<1が成り立ちますから,ベーテ格子上のランダムウォークは非再帰的ということになります.
ベーテ格子上のランダムウォークの場合には,出発したサイトに戻ってくる再帰確率は1/dですから,どこか他のサイトに移る確率は1−1/dで,dが大きくなるほどもとのサイトから離れやすくなることがわかります.
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