■ランダムウォークの母関数と準超幾何関数(その21)

単純ランダムウォークがd2≦ならば再帰的、d≧3ならば非再帰的であるとは

人間は酔っぱらっても偶然に帰路がみつかるが、鳥が酔っぱらうと永遠に迷子になる可能性があるということである。

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【1】d次元立方格子上のランダムウォーク

 d次元対称単純ランダムウォークは,確率1で出発点に戻れるだろうか? という問いに対しては

 a)d≧3のときは非再帰的であって無限の彼方へいってしまう

 b)d=1,2のときは再帰的である(すべての道はローマに通ず)

 しかし,再帰的とはいってもいつかは原点に帰るということであって,その戻るまでの時間の期待値は∞です.これを零再帰的と呼び,戻れるとはいっても戻りづらいことがわかります.3次元ランダムウォークの場合,たとえ無限に歩き続けたとしても,出発点に戻ってくる確率はおよそ0.34にすぎません.3次元では進める方向が多すぎて,偶然に出発点に戻ってくるのはそう簡単なことではないのです.

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【2】その他の2次元格子上のランダムウォーク

 2次元正方格子上の酔歩は再帰的ですが,その他の2次元格子ではどうでしょうか? 結論だけをいうと

正方格子  u2n 〜 (πn)^(-1)

三角格子  u2n 〜 √3/2(πn)^(-1)

六角格子  u2n 〜 3√3/2(πn)^(-1)

カゴメ格子 u2n 〜 2√3/3(πn)^(-1)

 すなわち,再帰的ということになります.これらの結果は,斜交座標を導入すると直交座標と同一視できることから得られますが,詳細については,志賀徳造「ルベーグ積分から確率論」共立出版を参照されたい.

[補]同じ大きさの正3角形2個のうち,1個を天地逆転させ,もう1個の正3角形に重ねると星形6角形ができます.これはダビデの星と呼ばれて,イスラエルの国旗にも使われ,ユダヤ人の象徴とされています.星形6角形では内側に正6角形ができますが,外側を6個の正3角形が取り囲んでいます.

 この星形6角形に対応するグラフが「カゴメ格子」です.カゴメ格子は正三角形と正六角形が互いに隣接した周期的な格子で,竹細工の篭の結び目にみられることからその名前が由来しています.カゴメ格子は,日本人が最も愛好した文様のひとつですが,ちなみにカゴメは世界でも通用する呼び名とのことです.

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