■ランダムウォークの母関数と準超幾何関数(その16)
単純ランダムウォークがd2≦ならば再帰的、d≧3ならば非再帰的であるとは
人間は酔っぱらっても偶然に帰路がみつかるが、鳥が酔っぱらうと永遠に迷子になる可能性があるということである。
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立方格子上の3次元ランダムウォークの再帰確率について考えてみましょう.今野紀雄「確率モデル」ナツメ社あるいはI.ピーターソン「カオスと偶然の数学」白揚社によると,3次元ランダムウォークでは出発点に戻ってくる再帰確率はおよそ0.34とあります.
両者は一致していますから,この再帰確率は数学者・科学者の間では正しいものと認知されている数値なのでしょう.しかし,小生にとっては0.34がなんの前触れも説明もなしに唐突にでてくるので,この再帰確率がどのようにして求められたものなのか,購読したときからの疑問でありました.
1次元ランダムウォークにおいて,粒子が時刻2nではじめて原点に復帰する確率は
f2n=u2(n-1)/2n
で与えられます.これを求めるのは簡単ではありません.そこでこの母関数をF(t)とおくと,
F(t)=1/(1−U(t))
により,
fn=(-1)^(n+1)1/2Cn
であることがわかります.
3次元ランダムウォークにおいても,原点への最初の復帰が2n回目に起きるという確率をf2nとすると,求める再帰確率はΣf2nで表されます.ここで母関数を使った少し込み入った議論が必要になるのですが,結論だけをいうと,n→∞のとき,
Σf2n=(Σu2n−1)/Σu2n=1−1/Σu2n
が成り立ちます.Σu2n=∞のときにはΣf2n=1,すなわち,ランダムウォークは再帰的,また,Σu2n<∞のときにはΣf2n<1で非再帰的となります.そこで,Σu2nの値を求めてみることにします.
まず,大まかな評価をするために,前節の漸近確率の結果をもとにして,Σu2nを計算してみることにしました.
Σu2n 〜 Σ(3/π)^(3/2)/2n^(3/2)
=(3/π)^(3/2)/2ζ(3/2)
ζ(3/2)=2.612375・・・ですから,
Σu2n 〜 1.22
したがって,
Σf2n=0.18
また,
u2n 〜 2^(1-d)d^(d/2)(πn)^(-d/2)
をもとに計算すると,
Σu2n 〜 (3/π)^(3/2)/4ζ(3/2)=0.61
となり,これが1に満たないことから
Σf2n=-0.64???
いずれにせよ,0.34には一致しないところか,かなりかけ離れた値になってしまいました.
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