■ランダムウォークの母関数と準超幾何関数(その19)

単純ランダムウォークがd2≦ならば再帰的、d≧3ならば非再帰的であるとは

人間は酔っぱらっても偶然に帰路がみつかるが、鳥が酔っぱらうと永遠に迷子になる可能性があるということである。

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単純ランダムウォークの再帰性,すなわち,いつかは原点に戻る確率(再帰確率)について考察することにします.

 非対称単純ランダムウォーク(p≠q)では,p,qの大小によって右か左にずれる傾向があるはずで,非再帰的,すなわちt→∞のとき無限の彼方へいってしまうことが予想されます(実際そうなるのであるが,その証明は後述する).そこで,p=q=1/2,すなわち対称単純ランダムウォークの場合を考えることにします.

 原点に戻るのはtが偶数の時に限られるので,2nステップのとき,左右に同じ回数nずつ移動する確率は

  u2n=2nCnp^nq^n

で与えられます.特に,対称(p=q=1/2)のときは,

  u2n=2nCn/2^(2n)

 また,粒子が時刻2nではじめて原点に復帰する確率は

  f2n=u2(n-1)/2n

で与えられます.この確率はカタラン数

  Cn=2nCn/(n+1)=1,2,5,14,42,・・・

を用いて,

  f2n=C(n-1)/2^(2(n-1)) と表されます.(カタラン数のはじめの4項1,2,5,14は初項1から始まって前項を3倍して1を引いたものに一致しますが,5項目以降は異なっています.)

 再帰性を判定するのには,たとえば,粒子が出発した点にいる確率がt=∞においても有限の値を示すときは再帰的,また,これは出発した点にいる確率をt=0からt=∞まで積算した量が無限大に発散するときは再帰的と定義できます.前者は強い意味の,後者は弱い意味の粒子の局在を表しています.すなわち,単純ランダムウォークが再帰的であるための必要十分条件は,

  Σu2n=∞

が成立することと考えられ,Σu2n<∞のときは再帰しないとします.

 ここで,ウォリスの公式によって,

  u2n=2nCn/2^(2n) 〜 (πn)^(-1/2)

が示されます.また,ゼータ関数

  ζ(k)=Σ1/n^k

はk≦1のとき発散し,k>1のとき収束しますから,1次元の対称単純ランダムウォークは再帰的であることがわかります.スターリングの公式を使っても同じ結果が得られます.

 なお,1次元非対称単純ランダムウォークに対しては,まったく同じ方法で,  u2n=2nCnp^nq^n=2nCn/2^(2n)(4pq)^n

  Σu2n=(1−4pq)^(-1/2)=1/|p−q|<∞

すなわち,非再帰的という結果が得られます.

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