■学会にて(京大数理解析研,その179)

[1]2次元泡細胞の辺数の平均は≦6であり,すべての泡細胞が6辺以上の辺をもつことは不可能である

[2]3次元泡細胞の面数の平均は≦14であり,すべての泡細胞が14面以上の面をもつことは不可能である

 したがって,2次元細胞の多くは6角形であり,3次元細胞の多くには14面体であるのだが,このことは,オイラーの多面体定理を使って証明される.

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【1】頂点価数3の無限タイル貼り

 <p>をひとつの面当たりの平均辺数,すなわち

  <p>=ΣpiFi/F,<p>F=ΣpiFi

とする.

 無限のタイル貼りについて,

  V−E+F=2

  3V=2E,ΣpiFi=<p>F=2E

が成り立つから,

  (2/<p>−1/3))E=2

 E→∞において,<p>=6が得られる.

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【2】オイラーの多面体定理

 つぎに,3次元立体では必ず頂点に結合する辺の個数が3の頂点か3角形の面をもつことを示します.n本の辺をもつfn枚の面とn本の辺が交わるvn個の頂点をもつ凸多面体について,

 i)Σnfn=Σnvn

 ii)Σf2n+1は偶数

 iii)v3+f3>0

を順に示していきます.

(証)各辺は2個の頂点をもつから,Σnvn=2E.また,各辺では2枚の面が交わるからΣnfn=2E.

(証)i)より,Σ(2n+1)f2n+1=(偶数),したがって,Σf2n+1も偶数.

(証)E=Σen,V=Σvn,F=Σfn,Σnfn=Σnvn=2E.    もしv3=0,f3=0ならば,2E=4v4+5v5+・・・≧4V.同様に,2E≧4F.これより,V−E+F≦E/2+E/2−E=0.これはオイラーの多面体定理:V−E+F=2に矛盾するから,v3,f3のうち,少なくとも1つは0でない.

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(Q)五角形と六角形からなる多面体には五角形が常に12個ある.

(A)n本の辺をもつfn枚の面とn本の辺が交わるvn個の頂点をもつ凸多面体について,

  F=f3+f4+f5+・・・

  2E=3f3+4f4+5f5+・・・

  6F−2E≧12

に代入すると

  3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・≧12

 地図のように2つの辺に囲まれた領域まで許すことにすると,この数え上げ公式は

  4f2+3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・=12

となり,係数が1ずつ小さくなり,それが0となるf6は式中に現れない.

 このことからもf3,f4,f5の少なくとも1つは0でない→多面体には3角形か4角形面か5角形面が少なくとも1つなければならない,同様に,多面体の少なくとも1つの頂点は3次か4次か5次でなければならない→すべての頂点の次数が6以上となることは不可能であり,必ず次数が5以下の頂点をもつことが導き出される.これもオイラーが知っていた結果であるということである.

 ここで,

(1)f2=f3=f4=0だとすると,少なくとも12個のf5がなければならないことになる(フラーレン).

(2)多面体の面がすべてf5とf6であるならば,f5=12(切頂二十面体など)

(3)多面体の面がすべてf4とf6であるならば,f4=6(切頂八面体など)

(4)多面体の面がすべてf4,f6,f8であるならば,f4=f8+6(大菱形立方八面体など)

(5)多面体の面がすべてf3とf6であるならば,f3=4(切頂四面体など)

 すなわち,球面を六角形と三角形で覆うとしたら,ちょうど4個の三角形が必要である.一般に,球面を六角形とn角形で覆うとしたら,ちょうどk=12/(6−n)個のn角形が必要である.n=3,4,5のとき,

  k=12/(6−n)=4,6,12

であるが,これは正多面体の面数と同じである.これらの結果は極めて重要で,四色定理の証明の中核をなしている.

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【3】頂点価数3の無限タイル貼り(その2)

 fnをn辺細胞の数とする.オイラーの多面体定理の応用で,

  F=f3+f4+f5+・・・

  2E=3f3+4f4+5f5+・・・

  V−E+F=1

から

  Σfn(6−n)=6

が導かれる.

 いくつかの構造欠損を除けば,6角形タイル貼りであるというのはこの式に従っているのである.

 なお,多面体の頂点の次数vnについては

  V=v3+v4+v5+・・・

  2E=3v3+4v4+5v5+・・・

  V−E+F=2

から,各面が三角形のの穴のない多面体では

  Σvn(6−n)=12

を満たす.

 たとえば,頂点の次数列

  v={4,4,4,4,4,4,6,6,6,6,6,6,6,6}

では,

  Σvn(6−n)=6(6−4)+8(6−6)=12

となる.

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【4】石鹸の泡細胞

 オイラーの定理が物理的作用と結びつくと,興味のある幾何学的効果が出現してきます.たとえば,2次元的にランダムに配列した石鹸の泡はいろいろなサイズの泡細胞からなっていますが,表面張力の要請から境界長を極小化しようとしますから,接合角度は120度となります(プラトー問題・最小シュタイナー木問題).このことから,石鹸の泡は各頂点の次数がすべて3である平面図形と考えることができます.また,互いに120°の角度で交わる石鹸膜の交線は

  arccos(−1/3)=109.471°

で接触します.正四面体の頂点から中心に向かう3枚の膜は互いに120°の角度をなし,中心に集まる4本の線は109.471°(マラルディの角)をなすのです.

 このように,120°と109.471°は石鹸膜が接触するときの基本的な角度ですが,コクセターは1つの泡に接する泡の数を

 (23+√313)/3=13.56

と計算し,そのアイデアを日記に記しています.

 これは2次方程式

  3x^2−46x+72=0

の解となっていることが見てとれますが,どのようにして導出されたものなのでしょうか?

(A)4次元正多胞体はシュレーフリ記号{p,q,r}・・・各頂点にp角形がq面集まる多面体が各辺にr個集まる・・・で表記されるとします.

 [参]コクセターの「最密充填と泡」に関する論文

  Coxeter: Close packing and froth, Illinois Journal of Mathematics 2, 746-758 (1958)

によると,p,q,rに関する不等式

  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)

  1/q+1/r>1/2   (q,r≧3)

に有限群であるという条件が付加されると,さらに2次不等式

  p−4/p+2q+r−4/r<12

  p−4/p<12−2q−r+4/r

  p^2−(12−2q−r+4/r)p−4<0

が得られます.

 泡細胞の合胞体の場合,1個の頂点に3個の辺が集まり,1本の辺の周りに3個の泡細胞が合するというのが空間分割の局所条件ですから,q=r=3とおくと

  p^2−(13/3)p−4<0

  p<(13+√313)/6=5.1153

これを

  f=12/(6−p)

  v=4p/(6−p)

  e=6p/(6−p)

に代入すると

  f=(23+√313)/3=13.564

  v=2(17+√313)/3=23.128

  e=17+√313=34.692

になるというわけです.

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【5】石鹸の泡細胞(その2)

 多面体の面がすべてf4とf6であるならば,f4=6(切頂八面体など)である.ケルビンは石鹸の泡がみせる規則性は,14面の切頂八面体による空間充填図形であるとした.面が曲面であれば泡が要求する120°と109.471°の条件を満たすことができるからだ.

 しかし,ケルビンの14面体は石鹸の泡の中にはほとんどみられないことが,ウィリアムスによって指摘された.なお,各頂点に4つの辺が集まる空間分割では

  <F>=12/(6−<p>)

  <F>=13.96 → <p>=5.1

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