■こんなところにもチェビシェフ多項式が現れる(その152)

 直交関数のあてはめでは,φk(x)に直交多項式(積分の形が0になる式,∫φi(x)φj(x)dx=0なる性質をもっている関数)を与えてやります.直交関数列φk(x)としては,三角関数やルジャンドル多項式などの直交関数がよく使われます.

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[1]ルジャンドル直交多項式のあてはめ

 ルジャンドルの直交多項式は水素原子の周りを回る電子の角運動量を表わす波動方程式として登場したもので,球対称性をもつ体系について偏微分方程式を解く際には必ずというほど登場する基本的な直交多項式です.そのため,三角関数が円関数と呼ばれるのに対し,ルジャンドルの多項式は球関数とも呼ばれます.

 放射性元素からは放射線があらゆる方向に等確率で放出されますが,ある特殊な条件ないしは環境のもとでは方向によって出る確率が違ってきます.これを異方性と称し,異方性を調べる実験を角度相関あるいは角度分布の測定などと呼びます.原子核物理の分野では,放射線が放出される方向の異方性を測ることは重要な意味をもっていて,放射線の角度相関のときにはルジャンドルの球関数で展開されますから,

  f(θ)=Σai φi (cosθ)

のような関数をあわせる習慣になっています.

 簡単に解説すると,母関数(1−2xt+t^2)^-1/2をtのべき級数に展開したときのtj の係数がルジャンドル多項式であり,

  (1−2xt+t^2)^-1/2=Σφj(x)tj

ですから,

φ0(x)=1,

φ1(x)=x,

φ2(x)=(3x^2−1)/2,

φ3(x)=(5x^3−3x)/2,

φ4(x)=(35x^4−30x^2+3)/8,

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・,

φn(x)=1/(2^n・n!)d^n/dx^n(x^2−1)^n

で表わされます(ロドリーグ(Rodrigues)の公式).ここで,φn(x)はxの2n次の多項式をn回微分しますからxのn次式になり,n次のルジャンドル多項式と呼ばれます.

 ルジャンドル多項式は,

φmφn =0   (m≠n:直交性)

(n+1)φn+1−(2n+1)xφn+nφn-1=0   (漸化式)

なる性質をもち,これらはφ0およびφ1から,漸化式

φn+1=(2n+1)/(n+1)xφn−n/(n+1)φn-1

を使って順に作っていくことができます.

 ルジャンドルの多項式は区間[−1,1]で定義されるものですが,xについての区間[a,b]で与えられる関数は,変数変換x=(b+a)/2+(b−a)/2tによって,tについての区間[−1,1]に容易に変換することができます.ルジャンドルの多項式は角運動量の量子化に用いられるなど,量子力学で非常に重要な役割を演じています.直交多項式系として最も代表的なものはルジャンドルの多項式の他にも,チェビシェフの多項式,ラゲールの多項式,エルミートの多項式があげられます.これらの方法の解説は割愛し,直交解法に関する良書に譲ることにします.

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[2]三角級数のあてはめ(フーリエ解析・調和解析)

 フーリエ解析と呼ばれる関数展開は,19世紀初頭,フランスの数学者・物理学者フーリエが熱伝導に関する著作の中で,任意の周期関数y=f(x)がサインとコサインの項の和,すなわち,単振動(調和振動ともいう)の和に分解されることを証明したことに始まります.

 f(x)が周期2πをもつ周期関数であるならば,

  y=f(x)=a0+a1cosx+b1sinx+a2cos2x+b2sin2x+・・・+akcoskx+bksinkx+・・・

と展開することができます.このような形をした関数を三角多項式といいます.この式は,もとの関数f(x)が基本波成分a1cosx+b1sinxとその高調波成分とを合成したものとして表わせることを意味し,aj,bjはその成分の寄与率を示しています.寄与率は別の言い方をすれば各成分の含有率であり,重みといってもよいでしょう.

 また,サイン波成分を適当な角度だけずらすとコサイン波になるのではサイン波成分とコサイン波成分との分離はあまり絶対的な意味をもちません.したがって,この式は,次式のようにも書き換えることができます.

  y=c0+c1sin(x+d1)+c2sin(2x+d2)+・・・+cksin(kx+dk)+・・・

さらに,曲線が奇関数であれば正弦項だけ,偶関数であれば余弦項だけの和となって,もっと簡単な式になります.

 f(x)が滑らかであれば,比較的少ない項でこの級数を打ち切っても,それはよくf(x)を近似しますから,有限個の三角級数により関数近似すること(有限三角級数展開)が可能です.

  y=a0+a1cosx+b1sinx+a2cos2x+b2sin2x+・・・+akcoskx+bksinkx

すなわち,フーリエ解析ではあまり短い周期をもつ成分は無視しても構いません.なぜかというと短い周期をもつ成分を無視して元の図形を再現するとその周期に相当した微細な構造が失われるだけで,無視してしまっても大して悪影響はないからです.また,周期関数f(x)の周期は2πですが,周期がTの関数はω=2π/T,x=ωtの変換によって新しい変数tを考えれば,tについての周期2πをもつ関数に変換されますから,上式の形で一般化して論ずることが可能になります.

 フーリエ変換は,鉄の輪を熱したときの温度分布を解析するなど熱伝導の考察から誕生しましたが,それが今日ではコンピュータと結びついて画像処理などの技術に利用されています.弦の振動や波を三角関数の級数で解くならまだしもわかりますが,熱伝導を三角級数で解くという着想は奇妙奇天烈に感じられます.フーリエ級数への展開はテイラー級数への展開よりもはるかに強力な方法であり,滑らかでない関数もこれによって表現可能です.フーリエは,べき級数の方法によって関数を取り扱うよりも三角級数による任意の関数表現のほうが正規直交基底の性質を活かせると考えたのでしょう.そして,これが原動力となって,現代解析学が生まれたのです.

 なお,フーリエ級数は周期関数にしか適用できませんが,非周期関数にも適用できるように,非周期関数を周期が∞の周期関数とみなしてフーリエ級数を拡張したものがフーリエ変換(FT)です.また,高速フーリエ変換(FFT)は位相補正によって未知の係数を効率よく計算する技法であり,1965年にCooleyとTukey により大量のデータを速度を重視して解析するテクニックとして開発されました.FFTは波動や振動現象の解明をはじめ多くの応用分野をもっています.

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