■こんなところにもチェビシェフ多項式が現れる(その120)
【6】ラマヌジャン数とラマヌジャン予想
保型形式が最初に現れたのは,1750年のオイラーによる五角数定理
Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2)) m(3m-1)/2は五角数
ですが,これを3乗した形の展開結果はかなり簡単になり,ヤコビの公式(1829年)
Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2) (m^2+m)/2は三角数
が得られます.
また,ヤコビの公式を経て,ラマヌジャンの保型形式論の時代(24乗の場合)に突入します.
オイラー数
f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)
=Σp(n)x^n=1+p(1)x+p(2)x^2+p(3)x^3+・・・
と同様にして,ラマヌジャン数が定義できます.
f(x)=xΠ(1-x^n)^24=x{(1-x)(1-x^2)(1-x^3)・・・}^24
=Στ(n)x^n=τ(1)x+τ(2)x^2+τ(3)x^3+・・・
ラマヌジャンは,
Δ(z)=η(z)^24=qΠ(1-q^n)^24=Στ(n)q^n
zは虚部が正の複素数で,q=exp(2πiz)
を考え,そのフーリエ係数τ(n)を計算しました.
τ(1)=1,τ(2)=-24,τ(3)=252,τ(4)=-1472,τ(5)=4830,τ(6)=-6048,
τ(7)=-16744,τ(8)=84480,τ(9)=-113643,τ(10)=-115920,
τ(11)=534612,τ(12)=-370944,・・・
ここでも,無限積をベキ級数に展開した式(フーリエ展開)が登場しましたが,このΔ(z)は,重さ12の保型形式
Δ(az+b/cz+d)=(cz+d)^12Δ(z)
と呼ばれるものになっていて,オイラーの五角数公式の拡張(24乗版)と考えられます.
ラマヌジャン数は,オイラーの分割数のアナローグであり,
(1)mとnが素ならば,τ(m)τ(n)=τ(mn)
τ(2)*τ(3)=-6048=τ(6),τ(2)*τ(5)=-115920=τ(10)
τ(3)*τ(4)=-370944=τ(12),τ(2)*τ(9)=2727432=τ(18)
τ(4)*τ(5)=-7109760=τ(20),τ(3)*τ(7)=-4219488=τ(21)
(2)τ(p^(n+1))-τ(p^n)τ(p)=-p^11τ(p^(n-1))
(3)τ(n)=(nの約数の11乗の総和) (mod 691)
など,驚くような性質をもっています.
また,ラマヌジャンは保型形式を用いて,たとえば,
Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504
Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π
Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240
Σ1/n{exp(2πn)-1}=-π/12-1/2log(ω/√2π)
を証明しています.ここで,πとωはそれぞれ,
π=2∫(0,1)1/√(1-x^2)dx=3.14159・・・(円周率)
ω=2∫(0,1)1/√(1-x^4)dx=2.62205・・・(レムニスケート周率)
です.
これらの等式は,積分表示
ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx
の離散化とみることができますが,この式はコラム「プランク分布と量子化の概念」で紹介したプランク分布(Bose-Einstein統計)そのものです.
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1916年,ラマヌジャンはラマヌジャン数のゼータについて考え,ある予想をたてました.ラマヌジャン数のゼータ,すなわち,
L(s)=Στ(n)n^(-s)
とおくと(オイラー積のアナローグ)
L(s)=Π{1-τ(p)p^(-s)+p^(11-2s)}^(-1)
が成り立つことを予想したのです.
ラマヌジャン数のゼータは,歴史上最初の2次のゼータといえるのですが,新種のゼータに関するこの予想は,翌年,モーデルによって証明されました(1917年).
また,τ(p)はpが増加するとき,急激に増加するのですが,1974年,ドリーニュによって,ラマヌジャン予想(ハッセの定理のアナローグ),
|τ(p)|<2p^(11/2)
が証明されています.
なお,佐藤予想のもとで
τ(p)=2p^(11/2)cosθp
とおくと,任意に固定された0≦a≦b≦πに対して,偏角θpが[a,b]となる素数密度は
2/π∫(a,b)sin^2θdθ
で与えられるだろうという予想がたてられています(セール,1968年).
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