■こんなところにもチェビシェフ多項式が現れる(その119)

【5】分割数の母関数

 

 ところで,分割数は,以下の公式によって代数的に定義することができます.

  f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)

    =Σp(n)x^n=1+p(1)x+p(2)x^2+p(3)x^3+・・・

すなわち,f(x)は分割関数p(n)の母関数で,p(n)はx^nの係数になっています.

 

 オイラーは4平方和定理

  「すべての正の整数は4個の整数の平方和で表される」

を証明するために,級数1+2Σx^(n^2)を考察しているのですが,このアイディアは,nの分割がnをk個の平方数の和への分割(nが平方和として何通りに書けるか):

  n=□1+□2+・・・+□k

として表した場合の解と1対1に対応することに拠っています.

 

 このことより,

  f(x)=(1+x+x^2+・・・)(1+x^2+x^4+・・・)(1+x^3+x^6+・・・)・・・

    =Π(1-x^n)^(-1)

そして,

  f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)

    =Σp(n)x^n=1+p(1)x+p(2)x^2+p(3)x^3+・・・

の恒等式は,1918年にハーディーとラマヌジャンによって,p(n)の漸近式を見いだすのに利用されることになりました.

 

 なお,オイラーの五角数定理

  Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2))

により

  x^(1/24)/f(x)=Σ(-1)^nx^((6n-1)^2/24)

したがって,左辺はデデキントのイータ関数の定義そのもの,また,右辺は確かにテータ級数(ベキが平方数であるような交代級数:例えば,1-x+x^4-x^9+x16-・・・)であることがわかります.

 

 分割関数の母関数は本質的にモジュラー形式を与えるというわけで,ラーデマッハーはその保型性から明示公式にたどりついたのですが,ハーディーとラマヌジャンはその第一近似式を得たことになります.このことに関して,セルバーグは,ハーディーとラマヌジャンが明示公式までたどりつけなかった原因はハーディーがラマヌジャンを十分に理解できなかったことによると興味深いコメントを述べています.

 

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[補]三角関数に対応する楕円関数sn,cn,dnがヤコビの楕円関数と呼ばれるのに対して,指数関数に対応するのがヤコビのテータ関数で,ヤコビはテータ関数:

  θ3(z)=1+2Σq^(n^2)cos(2nπ)

などを使って,楕円関数を表すことにも成功しています.

 

 オイラーの五角数定理は,左辺がイータ関数,右辺がテータ関数と呼ばれる保型形式の原型を与えていたので,19世紀には,

  デデキントのイータ関数=ヤコビのテータ関数

すなわち,保型形式の間の等式と捉えられるようになりました.さらに,1987年にウィッテンにより,素粒子の超弦理論はアデール理論として捉えられたことにより,最近では素粒子の超弦理論との関連も研究されています.

 

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