■こんなところにもチェビシェフ多項式が現れる(その117)
【3】佐藤予想
ところで,誤差項Mpはpに比べて小さく,
|Mp|=|c(p)|≦2√p
を満たすことが証明されています(ハッセの定理,1933年).
そこで,
cosθp=c(p)/2√p
とおくと,数論における楕円曲線のヴェイユ・ゼータに関する佐藤(幹夫)予想とは,楕円曲線Eの位数の分布に関するもので,Eが虚数乗法をもたないとき,偏角θpが任意に固定された0≦a≦b≦πに対して,偏角が[a,b]となる素数密度:
#{p≦x;a<θp<b}/π(x) 〜 2/π∫(a,b)sin^2θdθ
すなわち,その角分布はsin^2θに比例するであろうというものです.
角分布がsin^2θに比例するという佐藤予想の最初の記述は,資料によると,昭和38年(1963年)のことなのですが,sin^2予想でt=cosθとおけば,
偏角が[a,b]となる素数密度 〜 2/π∫(α,β)√(1-t^2)dt
となりますから,これも1種の半円則となっていることがわかります.
佐藤予想には,多くの言い換えがあって,
(1)x^2+Mpx+p=0
の解を
√p(cosθ±isinθ)
とするとき,その角分布はsin^2θに比例する
(2)Mp/2√pが√(1−x^2)に比例する
(3)ハミルトンの4元数環(フルヴィッツの整数):(a+bi+cj+dk)/2の半径pの格子点3次元球面:a^2+b^2+c^2+d^2=4pの一様分布の実軸方向への射影である
といっても同じことです.
佐藤予想(佐藤・テート予想)は現在も未解決で,リーマン予想に匹敵する予想であるといわれています.
なお,佐藤予想とは一見無関係に見えますが,Mpが−2√pから+2√pまでの区間をまんべんなく広がって分布していることに則って,巨大な整数の素因数分解に楕円曲線を応用する方法がレンストラによって発見され,最も強力な素因数分解法になっています.
現在,大きな素数を素因数分解するのに有用なアルゴリズムとして「楕円曲線法」や「平方ふるい法」とが知られています.楕円曲線はフェルマー予想の解決で注目された曲線で,数論研究に非常に役立っています.また,暗号理論も楕円曲線の重要な応用分野になっています.
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