■こんなところにもチェビシェフ多項式が現れる(その107)
2006年,ラマヌジャン予想(1916年)を深化させた佐藤予想の楕円曲線版(佐藤・テイト予想)が,ハーバード大学のリチャード・テイラーによって証明されました.今回のコラムでは,この100年に一度の大発展を取り上げてみたいと思います.
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【1】ラマヌジャン予想と佐藤予想
ラマヌジャンは,
Δ(z)=η(z)^24=qΠ(1-q^n)^24=Στ(n)q^n
zは虚部が正の複素数で,q=exp(2πiz)
η(z)はデデキントのイータ関数,η(z)=q^(1/24)Π(1-q^n)
を考え,そのフーリエ係数τ(n)を計算しました.
τ(1)=1,τ(2)=-24,τ(3)=252,τ(4)=-1472,τ(5)=4830,τ(6)=-6048,
τ(7)=-16744,τ(8)=84480,τ(9)=-113643,τ(10)=-115920,
τ(11)=534612,τ(12)=-370944,・・・
無限積をベキ級数に展開した式(フーリエ展開)が登場しましたが,このΔ(z)は,重さ12の保型形式
Δ(az+b/cz+d)=(cz+d)^12Δ(z)
と呼ばれるものになっていて,オイラーの五角数公式の拡張(24乗版)と考えられます.
ラマヌジャン数は,オイラーの分割数のアナローグであり,
(1)mとnが素ならば,τ(m)τ(n)=τ(mn)
τ(2)*τ(3)=-6048=τ(6),τ(2)*τ(5)=-115920=τ(10)
τ(3)*τ(4)=-370944=τ(12),τ(2)*τ(9)=2727432=τ(18)
τ(4)*τ(5)=-7109760=τ(20),τ(3)*τ(7)=-4219488=τ(21)
(2)τ(p^(n+1))-τ(p^n)τ(p)=-p^11τ(p^(n-1))
(3)τ(n)=(nの約数の11乗の総和) (mod 691)
など,驚くような性質をもっています.
1916年,ラマヌジャンはラマヌジャン数のゼータについて考え,ある予想をたてました.ラマヌジャン数のゼータ,すなわち,
L(s)=Στ(n)n^(-s)
とおくと(オイラー積のアナローグ)
L(s)=Π{1-τ(p)p^(-s)+p^(11-2s)}^(-1)
が成り立つことを予想したのです.
歴史上最初のゼータであるオイラー積
ζ(s)=Σn^(-s)=Π(1−p^(-s))^(-1)
は積の中身がp^(-s)の1次式であり,本質的には1次のゼータでしたが,L関数では,p^(-1)の1次式から2次式に進化しているのです.ラマヌジャン数のゼータは,歴史上最初の2次のゼータといえるのですが,新種のゼータに関するこの予想は,翌年,モーデルによって証明されました(1917年).
また,τ(p)はpが増加するとき,急激に増加するのですが,1974年,ドリーニュによって,ラマヌジャン予想,
|τ(p)|<2p^(11/2)
が証明されています.この式はp^(-s)=xとおいた2次式
1-τ(p)x+p^11x^2
の虚根条件(判別式:τ(p)^2-4p^11<0)となっていることに注意して下さい.
このようにして,
τ(p)=2p^(11/2)cosθp (0≦θp≦π)
なるθpがただひとつとれます.そこで,任意に固定された0≦a≦b≦πに対して,偏角θpが[a,b]となる素数密度は
2/π∫(a,b)sin^2θdθ
で与えられるだろうという佐藤幹夫予想がたてられています.すなわち,θp=π/2のあたりに多く分布していることを予想しているというわけです.
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