■階乗からガンマ関数へ(その78)

(2)ガンマ関数

Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)e^-tdt x>0

この無限積分をxの関数とみてガンマ関数Γ(x)といいます.

Γ(1)=∫(0,∞)e^-tdt=1

Γ(1/2)=∫(0,∞)t^(-1/2)e^-tdt

 ここで,t=u^2とおくと∫(0,∞)e^-u2/2du=√π/2(ガウス積分)より

  Γ(1/2)=√π

が得られます.

 オイラーの第2種積分とも呼ばれるガンマ関数Γ(x)には,Γ(x+1)=xΓ(x)の関係があり,次のような漸化式が成り立ちます.

  Γ(x+1)=xΓ(x)=x(x-1)Γ(x-1)=・・・・

したがって,xが正の整数nのときには,

  Γ(n+1)=n!

が成り立ち,ガンマ関数は階乗の一般形となっていることがわかります.階乗の解析的補間をしている関数がガンマ関数なのです.

(ガンマ関数と超球との関係)

ガウス積分をn次元に拡張し,

I=∫(-∞,∞)exp(-x1^2+x2^2+・・・+xn^2)dx1dx2・・・dxn

を考えると∫(-∞,∞)exp(-x2)dx=√πのn重積分より,直ちに

  I=π^(n/2)

を得ることができます.

 n次元ガウス積分を別の方法,直交座標でなく,極座標で求めてみましょう.

球に相当するn次元の図形を超球と呼びます.n次元単位超球{x12+x22+・・・+xn2≦1}の体積をVnとすると,V1=2(直径),V2=π(面積),V3=4π/3(体積)はご存知でしょう.また,単位超球の表面積Sn-1はnVn,半径rのn次元球の体積はvnr^n,表面積はnVnr^n-1となります.

 ガウス積分の被積分関数を原点を中心とする半径rの球面上で積分し,次にr=0からr=∞まで積分すると,半径rの球面上で被積分関数は一定値exp(-r^2)をとり,表面積はnVnr^n-1ですから,

I=∫(0,∞)exp(-r2)nVnr^n-1dr=nVn∫(0,∞)r^(n-1)exp(-r2)dr

z=r2と変数変換するとdz=2rdrより

I=nVn/2∫(0,∞)z^(n/2-1)exp(-z)dz

=Vnn/2Γ(n/2) n/2Γ(n/2)=Γ(n/2+1)

=VnΓ(n/2+1)

 したがって,

  Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)   rn=

を得ることができます.この結果は,形式的にVn=π^(n/2)/(n/2)!と書くことができます. Γ(m+1)=m!

これより,半径rのn次元超球の超体積はVnrn=(πr2)^(n/2)/Γ(n/2+1)となります.

 nが整数のとき,実際にVnの値を計算してみると,超球の体積はn=5のとき最大8π2/15=5.2637・・・となり,以後は減少します.

n  1次元 2次元 3次元 4次元 5次元  6次元

Vn  2   3.14 4.19   4.93 5.263 5.167

n  7次元 8次元 9次元 10次元

   4.72   4.06   3.30   2.55

(次元を整数に限らなければ5.256次元で最大となり,そのときの体積は5.277・・・である.)

 Vn-1がわかればVnは漸化式:

Vn/Vn-1=Γ(1/2)Γ{(n+1)/2}/Γ(n/2+1)=B(1/2,(n+1)/2)

によって求めることができますが,この計算は面倒ですから,Vn-2との漸化式

  Vn/Vn-2=2π/n

を用いると任意のnに対して

nが奇数であればVn=2(2π)^((n-1)/2)/n!!

nが偶数であればVn=(2π)^(n/2)/n!!

とも書けることも理解されます.

 n→∞のとき

  Vn/Vn-2=2π/n→0,Sn-1/Sn-3=nVn/(n-2)Vn-2=2π/(n-2)→0

ですから,不思議なことに,単位球面の体積や表面積はn→∞のとき0に収束するのです.

 また,このことから,n次元単位超立方体[-1,1]^nにおいて,単位超球が占める比率は,n=2であればπ/4(79%)であるが,n=5のときは16%に下落し,n=10となると0.25%になることも理解されます.高次元において,超立方体内に一様分布する標本を考えるとき,低次元の場合とは対照的に,大部分のデータは超球外に位置することになります.

 なお,比Vn-1/Vn-2=B(1/2,n/2)は自由度nのt分布の定数であり,実際,フィッシャーはn個の観測値の標本平均と母平均の差(距離)を標本標準偏差で割った統計量tの分布をn次元ユークリッド空間を使って導きだしています.

【補】ウォリスの公式

1/2B(1/2,(n+1)/2)=∫(0-π/2)(sinθ)^ndθ

この値をSnとおくと,部分積分により漸化式

  Sn=(n-1)/nSn-2

が得られますから,

n=2k(偶数)なら1・3・・・(2k-1)/2・4・・・(2k)*π/2

n=2k+1(奇数)なら2・4・・・(2k)/1・3・・・(2k+1)

 これより,lim1・3・・・(2k-1)/2・4・・・(2k)*√(k)=1/√(π)

変形するとウォリスの公式

  (2n)!/(2^nn!)^2√(n)=1/√(π)

が得られる.

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