■階乗からガンマ関数へ(その4)
【1】オイラーの公式
偉大な数学者オイラーは,指数関数と三角関数を結びつける美しい関係式:
exp(ix)=cosx+i・sinx
を見つけました.これにより指数関数と三角関数は複素関数の一部をなしていることが理解されます.一見無関係に見えた指数関数と三角関数のあいだには,実はこのように深い関係が秘められていたのです.
eの複素数乗とはこれいかにと驚かされますが,さらにx=πを代入することにより,数学で最も基本的な数とされるe,i,π,0,1がひとつの式の中に美しく現れている眼のくらむようなオイラーの関係式:
exp(iπ)+1=0
が得られたのです.スターが一堂に会したこれ以上の豪華な顔合わせは望むべくもありません.
さらに,eは最も簡単な線形微分方程式y=y’(=y”=・・・)の解,πは最も簡単な2階の線形微分方程式y=−y”の解に現れることがわかりますが,それ以上の高階の微分方程式に対して新しい定数を導入する必要がなかったということも驚くべきことです.
この有名な公式は数学者,科学者のみならず,神秘主義者,哲学者にも訴えかけるものをもっています.e,i,π,0,1の間の目を見張るような関係式を学んで数学を志すことにしたという話はよく聞かれるところですが,こんな不思議な関係を誰が予想したでしょうか.
数学を学んだことのある人は誰しもはじめてオイラーの公式に接したときの印象を忘れえないことと思います.このオイラーからの贈り物は人間精神の力量を試す試金石でもありますから,まさに人類の至宝であるといってよいでしょう.
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【2】スターリングの公式
数列{an}と{bn}がともに無限大に発散し,差{an−bn}は無限大に発散するが,比{an/bn}は1に近づくという例に,xを越えない素数の個数を与える近似的な公式(素数定理)
π(x)〜x/logxや
階乗n!の近似値を与える公式として有名なスターリングの公式があります.
n!〜√(2πn)n^nexp(-n)
”〜”記号は漸近的に等しい,すなわちxが十分大きいとき両者の比が1に近づくという意味であって,両者の差がなくなるという意味ではありません.いいかえれば,この近似式の絶対誤差はxの増大とともに増大するが,相対誤差は減少する,つまり,左辺と右辺の比はxを∞にすると極限が存在して0でも無限大でもなく,1に収束する,
π(x)/(x/logx)〜1 (x→∞)
ということです.
スターリングの公式を誘導してみましょう.
logn!=log1+log2+・・・+logn=Σlogx
ここで,y=logxのグラフを幅が1の長方形に分割していくと,xが十分大きければ相対的に和の間隔が小さくなるので,和は積分に置き換えられます.
Σlogx≒∫(1,x)logtdt
logxの原始関数は置換積分よりxlogx−x+Cと計算されますから,右辺はxlogx−x+1となります.したがって,
n!≒en^nexp(-n)
が得られます.
logn!=nlogn−n+o(n),ただし,limo(n)/n=0
としても大体了解されますが,もっと正確に近似すると
∫(0,n)logtdt<logn!<∫(1,n+1)logtdt
より
nlogn−n<logn!<(n+1)log(n+1)−n
したがって,両辺の相加平均に近い(n+1/2)logn−nでlogn!を近似できることになり,
∫(1,x)logtdt=log1+log2+・・・+logx−1/2logx+δ
であること,また,ウォリスの公式:√π〜(n!)^22^2n/(2n)!√n
より,結局,
n!〜√(2πn)n^nexp(-n)
にたどりつきます.
スターリングの近似公式は階乗の一般化であるガンマ関数の近似値としても使われています.
Γ(x+1)=∫e^-ttx dt〜√(2πx)x^xe(-x)
近似の程度を進めると
Γ(x+1)〜√(2πx)x^xe^-x[1+1/(12x)+1/(288x^2)-139/(51840x^3)-.....}
が得られます.これらの公式ではxが大きくなるほど相対誤差は小さくなります.
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【3】雑感
オイラーの公式は数学において最も美しい公式といわれますが,私にとってはスターリングの近似公式のほうがより美しく感じられます.この公式にもπとeが含まれていますが,整数のかけ算にπとeが現れ,しかも誤差はわずかですから,なおさら美しいというわけです.
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