■超幾何関数とその歴史展望(その14)
【3】ガウスの超幾何関数
ガウスは1812年に超幾何級数
F(α,β,γ:x)=1+αβ/γx+1/2!α(α+1)β(β+1)/γ(γ+1)x2+1/3!α(α+1)(α+2)β(β+1)(β+2)/γ(γ+1)(γ+2)x3+・・・
について非常に詳細な研究を行っていたことで知られています.この形の超幾何関数はガウスの超幾何関数と呼ばれ,
2F1(α,β;γ;x)
で表されます.
関数の記号に大文字のFを用いている理由は,超幾何微分方程式はフックス型方程式の代表例といってもよいものであって,フックスにちなんでその頭文字Fを採用したためです.また,2と1はその解であるガウスの超幾何関数の上部パラメータ,下部パラメータの数を表しています.上部パラメータα,βの少なくとも一方の値が負の整数の場合には,ガウスの超幾何関数は有限級数になります.また,上部パラメータ,下部パラメータともに1つの場合が合流型(クンマー型)超幾何関数です.上部パラメータの数p,下部パラメータの数qを変えることによって,一般の場合の超幾何関数pFqに拡張することができます.一般に,F(x)=Σanxnとおくと,a0=1で連続する2項の係数比an+1/anが定数となる関数を超幾何関数と呼びます.
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ベータ関数やガンマ関数は積分で定義されていましたが,ガウスのの超幾何関数のzの値は,
2F1(α,β;γ:z)=Γ(γ)/Γ(α)Γ(γ−α)∫(0,1)t^(α-1)(1-t)^(γ-α-1)(1-zt)^(-β)dt
というオイラーの積分表示が知られています.
(1-xt)^(-β)
を2項定理を用いて展開すると
(1-xt)^(-β)=Σ(-β,n)(-xt)^n=Σ[β]/n!(xt)^n
が得られます.これとベータ関数
B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt
を組み合わせることで,オイラーの積分表示が示されます.
ここで,
ω(t,z)=t^(α-1)(1−t)^(γ-α-1)(1−zt)^(-β)
とおくと
F(α,β;γ:z)∫(0,1)ω(t,0)dt=∫(0,1)ω(t,z)dt
ただし,∫(0,1)ω(t,0)dtはベータ関数B(α,γ−α)
となり,超幾何関数のzでの値はアーベル積分の商の形で書くことができます.
シュワルツ写像は超幾何微分方程式の2つの線形独立な解の比として定義されましたが,2つの超幾何積分の比としても表されます.この意味でシュワルツ写像は楕円曲線族の周期写像とみなすことができるのですが,この式において積分記号は周期を表していて,z=αが特異モジュールならば対応する周期の商も代数的数になるのです.
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被積分関数
ω(t,z)=t^(α-1)(1−t)^(γ-α-1)(1−zt)^(-β)
はtの1次式の積で,1次式の零点はt=0,1,1/zですが,これにt=∞もつけ加えて考えます.
被積分関数は超幾何関数の挙動を規定する本質的な関数で,射影直線P^1上に4個の分岐点:0,1,1/z,∞をもつ多価関数となっています.積分路としてはこの4点のうち2点を選びだしてそれらを結ぶ曲線をとるのですが,積分の端点(0,1)は4個の分岐点のうち2個を選んだものになっています.この意味でガウスの超幾何関数には4の分解1+1+1+1が対応しています.
直線上の4点の複比は射影によって不変ですから,これにより,射影直線P^1上の相異なる4点のなす配位空間,すなわち,複比の空間とみなすことができるのですが,シュワルツは4点のなす配位空間の一意化を与えたことになるのです.
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