■超幾何関数とその歴史展望(その12)

【7】超幾何関数の拡張

  F(α,β,γ:x)=1+αβ/γx+1/2!α(α+1)β(β+1)/γ(γ+1)x^2+1/3!α(α+1)(α+2)β(β+1)(β+2)/γ(γ+1)(γ+2)x^3+・・・

の形の超幾何関数はガウスの超幾何関数と呼ばれ,

  2F1(α,β;γ:x)

で表されます.

 関数の記号に大文字のFを用いている理由は,超幾何微分方程式はフックス型方程式の代表例といってもよいものであって,フックスにちなんでその頭文字Fを採用したためです.

 また,2と1はその解であるガウスの超幾何関数の上部パラメータ,下部パラメータの数を表しています.上部パラメータα,βの少なくとも一方の値が負の整数の場合には,ガウスの超幾何関数は有限級数になります.また,上部パラメータ,下部パラメータともに1つの場合が合流型(クンマー型)超幾何関数です.上部パラメータの数p,下部パラメータの数qを変えることによって,一般の場合の超幾何関数pFqに拡張することができます.

 また,ガウスの超幾何関数のzの値は,

  2F1(α,β;γ:z)=Γ(γ)/Γ(α)Γ(γ−α)∫(0,1)t^(α-1)(1-t)^(γ-α-1)(1-zt)^(-β)dt

という積分表示が知られています.

  (1-xt)^(-β)

を2項定理を用いて展開すると

  (1-xt)^(-β)=Σ(-β,n)(-xt)^n=Σ[β]/n!(xt)^n

が得られます.これとベータ関数

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt

を組み合わせることで,この積分表示が示されます.

 ここで,

  ω(t,z)=t^(α-1)(1−t)^(γ-α-1)(1−zt)^(-β)

とおくと

 F(α,β;γ:z)∫(0,1)ω(t,0)dt=∫(0,1)ω(t,z)dt

   ただし,∫(0,1)ω(t,0)dtはベータ関数B(α,γ−α)

となり,超幾何関数のzでの値はアーベル積分の商の形で書くことができます.

 シュワルツ写像は超幾何微分方程式の2つの線形独立な解の比として定義されましたが,2つの超幾何積分の比としても表されます.この意味でシュワルツ写像は楕円曲線族の周期写像とみなすことができるのですが,この式において積分記号は周期を表していて,z=αが特異モジュールならば対応する周期の商も代数的数になるのです.

 被積分関数

  ω(t,z)=t^(α-1)(1−t)^(γ-α-1)(1−zt)^(-β)

は超幾何関数の挙動を規定する本質的な関数で,射影直線P^1上に4個の分岐点:0,1,1/x,∞をもつ多価関数となっています.そして,積分の端点(0,1)は4個の分岐点のうち2個を選んだものになっています.

 直線上の4点の複比は射影によって不変ですから,これにより,射影直線P^1上の相異なる4点のなす配位空間,すなわち,複比の空間とみなすことができるのですが,シュワルツは4点のなす配位空間の一意化を与えたことになるのです.

 ガウスの超幾何関数は1変数関数ですが,多変数にも拡張することができます.そのためにはω(t,z)の形のベキ関数をもっと増やすのですが,アペル・ロリチェラの超幾何関数などがそれにあたります.

 多変数の超幾何関数は

  吉田正章「私説超幾何関数」共立出版

  青本和彦・喜多通武「超幾何関数論」シュプリンガー・フェアラーク東京

などで扱われています.とくに前者では射影直線P^1上のn点(5≦n≦8)のなす配位空間の一意化やさらに射影平面P^2内の6点のなす配位空間の一意化についての結果が丁寧に述べられていて(少なくとも私にとっては)とても興味深く感じられる著作でした.

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