■超幾何関数とその歴史展望(その8)

【1】シュワルツの代数関数解(シュワルツの三角群)

 ガウスの超幾何関数は多くの関数を含んでいるのですが,それでは,超幾何関数が代数関数になったり,初等関数になったり,特殊関数になったりを決定する条件はどのように表されるのでしょうか? そこで,ここでは,フックスが提起した問題「どのようなときに線形微分方程式のすべての解が代数的になるか?」を取り上げることにします.

 代数関数解とは2変数x,yの多項式f(x,y)=0で定義される関数のことをいいます.シュワルツは,微分方程式が導く保型関数から,

(1)円弧三角形を複素上半平面Hに写像する際の写像関数は,微分方程式の2つの解の比y1/y2で表されること.

(2)すべての解が代数関数←→写像関数が代数関数(α,β,γは有理数)

(3)円弧三角形の頂角λπ,μπ,νπは特性指数の差である.

(4)円弧三角形は,λ+μ+ν>1(λπ+μπ+νπ>π)になること.

を利用して,解がすべて代数関数となる条件を示しました.

 それは15通りの場合からなっているのですが,リーマン指標(λ,μ,ν)を用いて,整数部分を除いて小数点以下の端数部分を記すと,以下のように表されます.ただし,λ,μ,νの順序を変えることによる重複は避けています.

  正2面体群:(1/2,1/2,ν)

  正4面体群:(1/2,1/3,1/3)

  正4面体群:(2/3,1/3,1/3)  (整数部分の和=偶数)

  正8面体群:(1/2,1/3,1/4)

  正8面体群:(2/3,1/4,1/4)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(1/2,1/3,1/5)

  正20面体群:(2/5,1/3,1/3)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(2/3,1/5,1/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(1/2,2/5,1/5)

  正20面体群:(3/5,1/3,1/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(2/5,2/5,2/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(2/3,1/3,1/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(4/5,1/5,1/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(1/2,2/5,1/3)

  正20面体群:(3/5,2/5,1/3)  (整数部分の和=偶数)

 このように,シュワルツの表では分母が2,3,4,5の有理数になります.1/2が含まれるものについては,整数部分の和=偶数という条件は不要となります.そしてλ+μ+ν≦1であるか,λ+μ+ν>1であってもシュワルツの表を満たさない場合は解が超越関数となるのです.

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 平面充填ならば分母は2,3,4,6になるのですが,球面充填ですから分母は2,3,4,5となります.このように,シュワルツの方法は幾何的であって,

  λ+μ+ν>1

すなわち,球面を重なり合うことなく埋めつくす充填問題と深く関係していることが理解されます.

 実際,シュワルツが求めた解は正多面体が球面上に等角な図形を形作ることになるのですが,シュワルツの解において分子が1の場合は球面を単葉に,その他は複葉に覆う場合です.また,2個の円弧三角形を合わせたものを保型関数の基本領域,円弧三角形を上半平面に写像する1価関数をシュワルツ関数といいます.

 3個の確定特異点(動かない特異点)をもつ2階フックス型微分方程式の解構造はガウスの微分方程式の解構造に帰着することが知られているため,この問題は「超幾何微分方程式の24個の解すべてが代数関数となる条件を求めよ」と言い換えることもできます.そこでシュワルツはフックスの問題をまず超幾何方程式に対して解決し,引き続いて,一般の2階線形微分方程式に対しても解決しました.

 とはいっても,シュワルツの解答(1872)には不備があり不完全なものであったので,ブリオスキ(1876),クライン(1877),ケイリー(1880)らがシュワルツの誤りを訂正しました.

 なお,その方法には,幾何的(シュワルツとクライン),不変式論的(フックスとゴルダン),群論的(ジョルダン)なものがあったのですが,これらのうちで,群論的な方法(モノドロミー群は解がすべて代数的であるときに限って有限群となる)が際立った成功をもたらしました.こうして,フックスの問題は1870年代から1880年代にかけて解決されたことになります.

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