■超幾何関数とその歴史展望(その5)

超幾何関数は数学的内容のみならず,歴史的経緯も学ぶに値すると思われる

 それでは,超幾何関数が代数関数になったり,初等関数になったり,特殊関数になったりを決定する条件はどのように表されるのでしょうか? そこで,今回のコラムでは,フックスが提起した問題「どのようなときに線形微分方程式のすべての解が代数的になるか?」を取り上げることにします.

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【3】福原・大橋の初等関数解

 福原・大橋は初等関数で表される場合を解決しました(1949,1955).初等関数で表せるとは,ベキ関数・有理式とそれらの積分記号,微分記号で解が表せることをいいます.

 その条件とは,リーマン指標(λ,μ,ν)で,

  正2面体群:(1/2,1/2,ν)

  正4面体群:(1/2,1/3,1/3)

  正8面体群:(1/2,1/3,1/4)

  正4面体群:(1/3,1/3,1/3)  (整数部分の和=奇数)

  正8面体群:(1/3,1/4,1/4)  (整数部分の和=奇数)

とλ+μ+ν=奇数となる場合です.この表でも,λ,μ,νの順序を変えることによる重複は避けています.

 λ+μ+ν=奇数の場合を除いて,福原・大橋の表では分母が2,3,4,の有理数で,これらはシュワルツの正2面体群,正4面体群,正8面体群に対応しています.福原・大橋の表にはシュワルツの表の正20面体群(分母が5)は含まれません.また,1/2を含まない型では,整数部分の和は奇数に限られます.

 λ+μ+ν=奇数という条件は,シュワルツの表には含まれていません.すなわち,福原・大橋の表はシュワルツがやり残したλ,μ,νのうちいくつかが整数となる特殊な場合を含んでいることになります.また,シュワルツの表の正4面体群,正8面体群,正20面体群は福原・大橋の表に含まれるので,初等関数で表される場合になります.

 結局,代数関数,初等関数,その他で表されるかどうかを見るには,リーマン指標(λ,μ,ν)が,λ+μ+ν=奇数となるか,シュワルツの表の条件を満たす有理数になるかを見れば十分であることがわかります.

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 最後に,リーマンスキームとガウスの微分方程式の対応を与えておきます.整数部分を除いた小数点以下の端数部分に関して,

  λ=|1−γ|,μ=|γ−α−β|,ν=|β−α|

したがって,たとえば

  α=±(1−λ−μ−ν)/2,

  β=±(1−λ−μ+ν)/2,

  γ=±(1−λ)

このようにおくと,特異点ごとの指数がガウスの微分方程式と一致します.

 このことから

  λ+μ+ν=1−2α=奇数

したがって,パラメータα(あるいはβの少なくとも一方)の値が整数の場合には,ガウスの超幾何関数2F1(α,β;γ:x)は初等関数となることがわかります.負の整数の場合は有限級数になります.

また,

  (λ,μ,ν)=(1/2,1/3,1/4)→(α,β,γ)=(23/24,5/24,1/2)

  (λ,μ,ν)=(1/2,1/4,1/5)→(α,β,γ)=(1/40,9/40,1/2)

となるのですが,たとえ2F1(23/24,5/24,1/2,x),2F1(1/40,9/40,1/2,x)がどのような関数になるか具体的にはわからないにしても,それぞれ初等関数,超越関数となることはわかるというわけです.

 2F1→3F2→4F3→・・・と進んで,現在,一般的な超幾何関数nFn-1が代数的になる条件はすでに決定されているようです.

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