■超幾何関数とその歴史展望(その3)

超幾何関数は数学的内容のみならず,歴史的経緯も学ぶに値すると思われる

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【1】予備知識

 ここでは準備として,微分方程式の特異点について解説しておきます.多くの初等関数は簡単な2階微分方程式の解となっています.たとえば,

  y”=0  → y=ax+b

  y”=y  → y=exp(x)

  y”=−y → y=sinx,y=cosx

 数理物理学では,2階線形方程式

  y”+p(x)y’+q(x)y=0

がよく現れるのですが,p(x),q(x)の特異点がこの微分方程式の特異点となります.そして,解の特異性と係数(有理関数)の特異性との間の関係を明らかにするのがフックスの理論で,

  p(x)=g(x)/(x−c)

  q(x)=h(x)/(x−c)^2

のとき,x=cでp(x)が1位の極,q(x)が2位の極となりますが,p(x)が高々1位の極,q(x)が高々2位の極となるとき,x=cを確定特異点といいます.

 さらに,

  y”+p(x)y’+q(x)y=0

のxを実数に限らず複素数に拡張し,さらに無限遠点も導入します.このとき複素数平面は複素数球面と同一視することができます.x=∞における性質は,ξ=1/xを独立変数にとって

  y”+{2/ξ−1/ξ^2p(1/ξ)}y’+1/ξ^4q(1/ξ)y=0

のξ=0における性質に直して考えるのですが,これがξ=0を確定特異点とするとき,すなわち,

  2/ξ−1/ξ^2p(1/ξ)

または

  1/ξ^4q(1/ξ)

がξ=0を特異点にもつとき,x=∞を確定特異点にするといいます.

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 確定特異点数による分類をしてみましょう.この微分方程式が無限遠点まで含めてまったく確定特異点をもたない場合は存在しません.

 1個の場合は,

  y”+2y’/(x−c)=0 → a/(x−c)+b

無限遠点が特異点ならば

  y”=0 → y=ax+b

より,解は1次関数となります.

 2個の場合は,特異点を1次分数変換(メビウス変換)によって無限遠点と原点に移すと,オイラーの方程式

  y”+ay’/x+by/x^2=0

の形となり,累乗関数(多項式を含む),対数関数,指数関数,三角関数といった初等関数が現れます.すなわち,初等関数は確定特異点を2個もつ2階線形微分方程式の解として現れるのです.

 それでは,確定特異点を3個にしたらどうなるかですが,答を先にいうと,解は一般には初等関数では表されず,いわゆる特殊関数が勢揃いして現れます.

 確定特異点であるという条件は,p(x),q(x)の次数をそれぞれp,qとするとき,フックスの定理より

  p≦−1,q≦−2

ですから,

  p(x)=(ax+b)/x(1−x)

  q(x)=(cx^2+dx+e)/x^2(1−x)^2

が3個の確定特異点をもつ2階線形常微分方程式の一般形となります.

 ここで,

  a=-(α+β+1),b=γ,c=αβ,d=-αβ,e=0

とおくと,ガウスの超幾何方程式

  x(1-x)d^2y/dx^2+{γ-(α+β+1)x}dy/dx-αβy=0

が得られます.

 全平面で確定特異点だけを特異点とする方程式をフックス型というのですが,特異点の数が,∞を含めて3つの場合,その確定特異点を0,1,∞に移したときに得られるのが,ガウスの超幾何微分方程式であり,その解が超幾何関数であるというわけです.

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