■超幾何関数とその歴史展望(その1)

超幾何関数は数学的内容のみならず,歴史的経緯も学ぶに値すると思われる

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 超幾何関数はオイラーによって発見されていて,ガウスはそれを元に研究を進め発展させました.そして,クンマーは6つの置換

  x→x,1−x,1/(1−x),1/x,x/(x−1),(x−1)/x

から,

  F(α,β,γ:x)

と線形独立な超幾何微分方程式の24個の解の集合をを与えています.

 たとえば,超幾何微分方程式

  x(1-x)d^2y/dx^2+{γ-(α+β+1)}dy/dx-αβy=0

において,1-u=xと置き換えると,微分方程式は

  u(1-u)d^2y/du^2+{α+β+1-γ-(α+β+1)u}dy/du-αβu=0

となりますから,最初の方程式でγをα+β+1-γで置き換えた

  F(α,β,α+β+1−γ:1−x)

も解になります.

 24個の解の中には同じ関数の異なる表現もあり,これがクンマーの関数等式です.関数等式はガウスの超幾何関数を他の超幾何関数に移す変換と考えることができます.クンマーの関数等式の一部は

  F(α,β,γ:x)=(1-x)^(γ-αーβ)F(γ−α,γ−β,γ:x)

  F(α,β,γ:x)=(1-x)^(-α)F(α,γ−β,γ:x/(1−x))

のようにガウスによってすでに得られていたのですが,これで解の完全系が全部揃ったことになります.

 

 また,リーマンによって今日の言葉でいう解析接続がなしとげられました.ガウスの時代すなわち複素関数論が未完成の時代にあっては解析接続の概念を完全に把握するには困難があったのですが,これらの基礎の上に立ってリーマンは代数関数論を完成させました.ガウスが果たし得なかったことをリーマンが成し遂げる結果となったのです.

 さらに,シュワルツは超幾何微分方程式の解が代数関数となる条件を求めたのですが,このようにして微分方程式論は数学の奥深い世界へとつながっていくことになりました.シュワルツやポアンカレは微分方程式が導く保型関数を考えたのですが,その原型はすでに超幾何関数の中にあったわけです.

 ガウスの超幾何関数は歴史的にも早く,そのため多くのことが知られていますが,特異点の数が少ないとつまらない解となる一方で,逆にこれ以上特異点の数が多くなると,まだ余りよく調べられていないということになります.

 たとえば,マチウ関数やラメ関数は,複素数球面上に4個または5個の特異点をもつ微分方程式の解ですし,近年,物理学(可積分系)に現れて脚光を浴びているパンルヴェの微分方程式PVIも0,1,∞の動かない特異点以外に動く特異点をもつ重要な方程式となっています.余談ながら,フランスのパンルヴェはのちに政界に入り,最後は首相にまでなった数学者です.

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