■二項定理のqアナログ(その5)

 2項定理は数学の基本的な定理の中でも最も重要な定理である.ここでは,nCkのことを(n,k)を書くことにするが,階乗や2項係数などを含んだ有限和では,たとえば

  Σ(n,k)=2^n

次数nの2項係数の和は2^nであるという有名な(古い?,由緒ある?)恒等式がある.これは,パスカルの三角形

  Σ(n,k)p^k・q^(n-k)=(p+q)^n

において,p=1,q=1とおくことにより簡単に導かれる.

 2項係数の2乗の和も非常に簡単である.  

  Σ(n,k)^2=(2n,n)

(証明)文字1,2,・・・,nからk個の文字の選び方は(n,k)通り.

文字n+1,n+2,・・・,2nからn−k個の文字の選び方は(n,n-k)通り.

したがって,そのような対の選び方は(n,k)(n,n-k)=(n,k)^2通り.

 一方,2n個の文字1,2,・・・,2nからn個の文字の選び方は(2n,n)通り.各kに対する上の対の選び方は1対1に対応しているから,その和Σ(n,k)^2は(2n,n)に等しい.

 では,3乗の和はどうなるのであろうか?

  Σ(n,k)^3=?

実はこれには単純な公式のないことが証明されている.(f(n)=Σ(n,k)^3の満たす漸化式は

  8(n+1)^2f(n)+(7n^2+21n+16)f(n+1)-(n+2)^2f(n+2)=0

であるが,閉形式の解はもたない.)

 比較的有名な有限級数をあげておくと,

  Σ(-1)^k(n,k)=0

  Σk(n,k)=n2^(n-1)

  Σ(2n-2k,n-k)(2k,k)=4^n

  Σ(-1)^k(2n,k)^3=(-1)^n(3n)!/(n!)^3

  Σ(-1)^k(a+b,a+k)(a+c,c+k)(b+c,b+k)=(a+b+c)!/a!b!c!

  Σ(-1)^k(2n,k)(2k,k)(4n-2k,2n-k)=(2n,n)^2

  Σ(i+j,i)(j+k,j)(k+i,k)=Σ(2j,j)   i+j+k=n

  Σ(-1)^(n+r+s)(n,r)(n,s)(n+r,r)(n+s,s)(2n-r-s,n)=Σ(n,k)^4

  Σ(-1)^k(2n,k)^3=(-1)^n(3n)!/(n!)^3

  Σ(-1)^k(a+b,a+k)(a+c,c+k)(b+c,b+k)=(a+b+c)!/a!b!c!

はコラム「定数項予想入門」にもでてきたディクソンの有名な和公式であるが,とくに後者の恒等式は美しく覚えやすい形である(ディクソンの恒等式).

 また,

  Σ(n,k)(n+k,k)^2

  Σ(n,k)^2(n+k,k)^2

はそれぞれアペリがζ(2),ζ(3)の無理数性の証明に用いた数列であるし,

  Σ(n,k)(n+k,k)

はlog2の数列を構成する.→コラム「ゼータとポリログ関数」参照

 有名ではないが,次のようにゼータ関数に帰着する無限級数も知られている.

  Σ1/(2n,n)={2π√3+9}/27

  Σ1/n(2n,n)=π√3/9

  3Σ1/n^2(2n,n)=ζ(2)

  12Σ(2-√3)^n/n^2(2n,n)=ζ(2)

  5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=ζ(3)

  36/17Σ1/n^4(2n,n)=ζ(4)

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