■二項定理のqアナログ(その1)
 熱放射に関するプランク分布は,数学的にみるとゼータ関数・ガンマ関数と関連していて,量子化の概念では
  1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1−x)
  1+e^(-x)+e^(-2x)+・・・=1/(1-e^(-x))
など無限等比級数がしばしば登場する.
 ところで,q→1とすることによって,
  1,1+q,1+q+q^2,・・・,1+q+q^2+・・・+q^(n-1),・・・
は1,2,3,・・・,n,・・・に近づく.このことから逆に
  1,1+q,1+q+q^2,・・・,1+q+q^2+・・・+q^(n-1),・・・
=(1−q)/(1−q),(1−q^2)/(1−q),(1−q^3)/(1−q),・・・,(1−q^n)/(1−q),・・・
は自然数のqアナログを与えていると考えることができる.
 qアナログは量子化の概念に非常によく似た形で与えられるといったほうがわかりやすいかもしれない.したがって,階乗n!のqアナログは
  Π(1-q^k)/(1-q)
となるが,2項係数(n,m)=n!/m!(n-m)!のqアナログ(q-2項係数)を
  [n,m]
と書くことにして,さらに
  (a;q)n=(1-a)(1-aq)・・・(1-aq^(n-1))=Π(1-aq^k)
なる記号を導入すると
  (q;q)n=(1-q)(1-q^2)・・・(1-q^n)=Π(1-q^k)
になるので,
  [n,m]=(q;q)n/(q;q)m(q;q)n-m
 このようにして,2項定理
  (1+z)^n=Σ(n,m)z^m
のqアナログは
  (1+z)(1+zq)・・・(1+zq^(n-1))=(-z;q)n= Σ[n,m]q^(m(m-1)/2)・z^m
と表すことができる.
 また,これよりq-2項級数は
  (az;q)∞/(z;q)∞=Σ(a;q)m/(q;q)m・z^m
ガンマ関数(階乗の一般化),ガウスの超幾何関数(2項級数の一般化)のqアナログも同様に与えることができて,
  q-ガンマ関数:Γq(x)=(q;q)∞/(q^x;q)∞(1-q)^(1-x)
  q-超幾何関数:2φ1(a,b,c:q,x)=Σ(a;q)m(b;q)n/(c;q)m(q;q)m・x^m
と定義される.
 q-超幾何関数はハイネの超幾何関数2φ1とも呼称される.ガウスの超幾何関数2F1は超幾何微分方程式
  x(1-x)d^2y/dx^2+{γ-(α+β+1)x}dy/dx-αβy=0
を満たすが,q-超幾何関数2φ1は類似の2階差分方程式をみたす.
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