■超幾何関数とある代数方程式(その3)

 ガウスの超幾何関数

  F(α,β,γ:x)=1+αβ/γx+1/2!α(α+1)β(β+1)/γ(γ+1)x^2+1/3!α(α+1)(α+2)β(β+1)(β+2)/γ(γ+1)(γ+2)x^3+・・・

が重要でありまた面白いと思われる点を列挙してみます.

 まず

(1)多くの既知の関数がこの級数で表される

という事実があげられます.たとえば,指数関数,対数関数,三角関数,2項関数,ベッセル関数,直交多項式列,不完全ガンマ関数,指数積分,ガウスの誤差関数なども超幾何級数です.

 ガウスの超幾何関数は,超幾何微分方程式

  x(1-x)d^2y/dx^2+{γ-(α+β+1)x}dy/dx-αβy=0

で定義される1変数の超越関数です.この微分方程式の特異点についてx=0,1はこの微分方程式の確定特異点となるのですが,xを1/xに置き換えるとx=∞も確定特異点となることがわかります.

 全平面で確定特異点だけを特異点とする方程式をフックス型というのですが,特異点の数が∞を含めて3つの場合,その確定特異点を0,1,∞に移したときに得られるのがガウスの超幾何微分方程式であり,その解が超幾何関数であるというわけです.

 そしてまた,α,β,γを有理数としたとき,超幾何微分方程式はピカール・フックス型になります.このとき,代数曲線の周期積分との関係が明らかになり,リーマン面の一意化という魅力のある問題が提起されます.モノドロミーとは関数の多価性を測る尺度のことで,リーマンは超幾何微分方程式の場合を解決した(リーマン面の一意化).

 これに対する解答として,ガウスの超幾何関数に対するシュワルツの有名な定理(1873年)

(2)モノドロミー群が有限群ならば超幾何関数は代数関数である

がでてくるのですが,その証明は球面(平面)を三角形で敷きつめることに帰着されるのでした(→コラム「超幾何関数とフックスの問題」参照).超幾何関数はふつう超越関数ですが,ときどき代数関数になることがあり,

  2F1(-n,1,1,z)=(1−z)^n

はこの例です.

 次に代数関数とはならない場合を考えてみることにしましょう.指数関数:y=exp(x)は座標(0,1)を通りますが,点(0,1)がこの滑らかな曲線上の唯一の代数的点であって,自明な点(0,1)を除き代数的点を通ることができません.これが指数曲線や対数曲線が超越曲線と呼ばれる所以なのですが,これ以外のどの代数的点にもぶつからないのは驚くべきことです.

 超幾何関数の値は微分方程式のモノドロミー群に深く関わってくるのですが,超越関数となる超幾何関数の代数的な変数での特殊値はふつう超越的です.しかし,

(3)超越関数でありながらも,ときどき予期されない代数的値をとる

ことがあります.

 例をあげると,楕円積分と関わる保型関数

  4√E4(z)=2F1(1/12,5/12;1;1728/j(z))

とのつながりから,ガウスの超幾何関数

  2F1(1/12,5/12;1/2;1323/1331)=3/4・4√11

など,思いもかけないような式がヴォルファルトにより得られています.x座標1323/1331もy座標3/4・4√11も代数的数になるというわけですが,このように自明でない代数的点が存在するのです(→コラム「数にまつわる話」参照).

  2F1(1/12,7/12;2/3;64000/64009)=2/3・6√253

などもその例ですが,現在,2F1ばかりでなく,一般的な超幾何関数nFn-1が代数的になる条件はボイカーズとヘックマンによりすでに決定されているようです.

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