■ベッセル関数と虹の数理(その4)

虹の数理を研究するために導入されたエアリーの関数は、±1/3次のベッセル関数で表されることがわかっている

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[3]ストークス

 ニュートンから100年以上経った19世紀になってエアリーによってなされた虹の波動光学的理論では,新しい関数(エアリー関数)を必要とした.これ以降,虹の理論が著しく数学的になるのを避けられなくなったのだが,過剰虹の研究を完結させたのはストークスであり,それは今日,ストークス現象といわれている.

 エアリーが,物理光学の面から虹の説明を論ずるために導入したエアリー関数

  Ai(x)=∫(0,∞)cos{π/2(t^3−xt)}dt

は収束が悪いために,数値計算は困難である.エアリー自身はいろいろなxに対する値を区分求積法で数値積分したのだが,大変な手間であった.

 13年後の1849年にエアリーは,ド・モルガンが発見したエアリー関数のテイラー展開

  ∫(0,∞)cos(t^3−xt)dt=π/3[Σ(−x)^3k/k!Γ(k+2/3)−Σ(−x)^(3k+1)/k!Γ(k+4/3)]

を用いて,自分の計算をより精密にしているが,物理的には特に新しいことはない.

 その後,ストークスは,エアリー関数が解となる微分方程式

  y”=xy

を利用して,実数のパラメータxを複素平面全体に拡げ,エアリー関数の零点その他の詳しい性質を調べた.その結果,エアリー関数は,

  ∫(0,∞)cos(t^3−xt)dt=π/3√(π/x)[J1/3(2x^3/2/3^3/2)−J-1/3(2x^3/2/3^3/2)]

のように,±1/3次のベッセル関数で表現できることがわかった.このことによって,数値計算の手間が大幅に削減されたことが容易に想像できよう.

 ストークスの研究は,xが大きいときのエアリー積分の漸近挙動を調べるといった今日の漸近解析のはしりであって,現代の解析学に直結し,常微分方程式論の中に「複素平面上の無限遠点に不確定特異点をもつ常微分方程式」という分野を生み出した.

 

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 なお,ベッセル関数は,惑星の運動に関するケプラー問題を解析的に表現しようと試みた天文学者・数学者ベッセルの研究にちなんでいる.惑星の軌道は太陽を中心とする楕円軌道

  r=1/(1+ecosθ)

を動くが,距離rと角度θが時間tの関数としてどのようになるか問うのが,いわゆるケプラー問題であって,ケプラー方程式は

  E−esinE=M

Eは離心近点離角,Mは平均近点離角,eは楕円の離心率で表される.

 

 ベッセル関数は三角関数に似た増減関数で,とくに,半整数次のベッセル関数は三角関数で表現できるわかりやすい関数である.

  J1/2=√(2/πx)sinx

  J-1/2=√(2/πx)cosx

しかし,三角関数の零点が一定の幅で規則正しく並ぶのに対して,任意の次数のベッセル関数の零点は単純にある値の整数倍とはいかない.

 ベッセル関数は,惑星の公転にはじまって,電磁波や光の回折,振動を表すのに適していて,物理学・工学分野で広く用いられている.一方,統計分野では,物理学・工学分野と異なり,変形ベッセル関数が用いられる.第1種n次の変形ベッセル関数はIn(x),第2種n次の変形ベッセル関数はKn(x)で表されるが,変形ベッセル関数はx>0において非負の関数で,それぞれ単調増加,単調減少する.とくに,半整数次の変形ベッセル関数は双曲線関数で表現される.

  I1/2=√(2/πx)sinhx

  I-1/2=√(2/πx)coshx

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