■代数学の基本定理とiの1/2乗とガロア理論(その31)

 exp(iπ)+1=0

を普通の言葉に変換すると,ある無理数をある虚数の累乗して1を足すと0になる.

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 高校の教科書では指数関数や対数関数の導関数を求めるのに,自然対数の底eをnを大きくしたときの(1+1/n)^nの極限値として定義してありますが,これを示したのもオイラーです.

  (1+1/n)^n →e      (n→∞)

これは(1+1/n)^n <e<(1+1/n)^n+1 などの不等式により初等的な方法で証明できます.

 この伝統的な経路は,歴史的にも感覚的にも自然ですが,厳密な証明が煩雑であることや極限値に近づく収束速度が遅いなどの欠点があり,現在では次第に,eをΣ1/n!として定義するようになってきています.

Σ1/n!→e      (n→∞)

実際,(1+1/n)^n とΣ1/n!の収束速度を比較してみると後者のほうが圧倒的に優れていて,

  e=1+1/1!+1/2!+1/3!+1/4!+・・・

   =2.718281828・・・

となることがわかります.

 また,指数関数ex は

  (1+x/n)^n →e^x      (n→∞)

または,無限級数展開することによって

e^x =Σx^n /n!

  =1+x/1!+x^2/2!+x^3/3!+x^4/4!+・・・

として定義されます.

 e^x=Σxn /n!において,xの代わりにixとおくと

e^ix=Σ(ix)^n/n!

  =Σ(−1)^nx^2n/(2n)!+iΣ(−1)^nxー2n+1/(2n+1)!

これから,e^ix=cosx+i・sinxを得ることができます.

 偉大な数学者オイラーは,このようにして指数関数と三角関数を結びつける美しい関係式:

  e^ix=cosx+i・sinx

を見つけました.これにより指数関数と三角関数は複素関数の一部をなしていることが理解されます.一見無関係に見えた指数関数と三角関数のあいだには,実はこのように深い関係が秘められていたのです.

 eの複素数乗とはこれいかにと驚かされますが,さらにx=πを代入することにより,数学で最も基本的な数とされるe,i,π,0,1がひとつの式の中に美しく現れている眼のくらむようなオイラーの関係式:

  e^iπ+1=0

が得られたのです.スターが一堂に会したこれ以上の豪華な顔合わせは望むべくもありません.

 さらに,eは最も簡単な線形微分方程式y=y’(=y”=・・・)の解,πは最も簡単な2階の線形微分方程式y=−y”の解に現れることがわかりますが,それ以上の高階の微分方程式に対して新しい定数を導入する必要がなかったということも驚くべきことです.

 この有名な公式は数学者,科学者のみならず,神秘主義者,哲学者にも訴えかけるものをもっています.e,i,π,0,1の間の目を見張るような関係式を学んで数学を志すことにしたという話はよく聞かれるところですが,こんな不思議な関係を誰が予想したでしょうか.

 数学を学んだことのある人は誰しもはじめてオイラーの公式に接したときの印象を忘れえないことと思います.このオイラーからの贈り物は人間精神の力量を試す試金石でもありますから,まさに人類の至宝であるといってよいでしょう.

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