■代数学の基本定理とiの1/2乗とガロア理論(その27)

 x^2+y^2

を実数の世界で因数分解することはできませんが,複素数を使うと

  x^2+y^2=(x+yi)(x−yi)

のように因数分解できます.また,

  a^2+b^2+c^2−ab−bc−ca

は,ω(1の虚立方根)=(i√3−1)/2を用いると

  (a+bω+cω^2)(a+bω^2+cω)

と書くことができます.

  x^2+y^2+z^2

は複素数の助けを借りても因数分解できませんが,4元数を用いると,

  x^2+y^2+z^2+w^2=(x+yi+zj+wk)(x−yi−zj−wk)

ですから,

  x^2+y^2+z^2=−(xi+yj+zk)^2

のように因数分解できます.

 このシリーズのネタは複素数を使っても因数分解できなかった

  x^2+y^2+z^2

  x^2+y^2+z^2+w^2

をトリックを用いて分解する方法を紹介したいと思います.

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【1】複素数と行列

 平面の回転行列は

  [cosθ,−sinθ]

  [sinθ, cosθ]

の形に書けます.

 ある複素数に虚数単位iをかけると

  zi=(x+yi)i=−y+xi

となり,この操作は90°回転に対応することがわかります.そこで,回転行列にθ=π/2を代入すると

  J=[0,−1]

    [1, 0]

となります.

 複素数平面でiが果たす役割と行列Jが果たす役割は等しいのですが,実際にこの行列を2乗すると

  J^2=[1,0]=−E

     [0,1]

となって,虚数のもっている性質を備えていることがわかります.

 「E→1,J→iと置き換える」ことを踏まえると,複素数に対応した行列を導入することができます.

  Z=xE+yJ=[x,−y]

          [y, x]

ここで,

  E=[1,0]   J=[0,−1]

    [0,1]     [1, 0]

  Z’=xE−yJ=[ x,y]

           [−y,x]

  Z・Z’=[x^2+y^2,0]=(x^2+y^2)E

       [0,x^2+y^2]

ですから,(x^2+y^2)Eという行列が(虚数単位iを陽に用いることなしに)行列Zと行列Z’の積に分解できたことになります.

 また,オイラーの公式

  exp(iθ)=cosθ+isinθ

を行列で表現すると

  exp(Jθ)=(cosθ)E+(sinθ)J

         =[cosθ,−sinθ]

          [sinθ, cosθ]

となって,確かに回転行列になっていることがわかります.

[問]2次の正方行列でX^2=−Eを満たすものは,複素数の範囲では

  [i,0]

  [0,i]

などがある.実数の範囲でも解は無数にある.その解をすべて求めよ.

[補]E,Jはそれぞれ対称行列(B’=B),交代行列(B’=−B)になっています.任意のn次正方行列Aに対して,

  B=(A+A’)/2,C=(A−A’)/2

とおけば,Bは対称行列,Cは交代行列であって,

  A=B+C

のような分解は一意で与えられます.

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【2】iのi乗

 オイラーの定理:

  exp(iθ)=cosθ+isinθ

において,θ=πを代入すると,exp(iπ)=−1という有名な式が得られる.

 一方,i^2=−1であるから

  exp(iπ)=i^2

両辺をθ/π乗すると

  exp(iθ)=i^(2θ/π)=cosθ+isinθ

が成り立つ.

  θ=π/2のとき,i=i

  θ=π/4のとき,i^(1/2)=(1+i)/√2

  θ=π/6のとき,i^(1/3)=(√3+i)/2

iの実数乗は回転作用を表すことがわかる.

 さらに,両辺をi乗すると

  exp(−θ)=i^(2iθ/π)=(cosθ+isinθ)^i=cosiθ+isiniθ

が成り立つ.

  θ=π/2のとき,i^i=exp(−π/2)

  θ=π/4のとき,i^(i/2)=exp(−π/4)

  θ=π/6のとき,i^(i/3)=exp(−π/6)

iの虚数乗は実数になることがわかるが,これは原点からの距離(ノルム)の増減作用を表していると考えられる.

 また,

  exp(−θ)=i^(2iθ/π)=cosiθ+isiniθ

  exp(θ)=i^(-2iθ/π)=cosiθ−isiniθ

に,θ=1を代入すると

  1/e=cosi+isini

  e=cosi−isini

  cosi=(e+1/e)/2

  sini=(e−1/e)/2i

となる.

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【3】JのJ乗

 複素平面上における回転作用素は

  exp(iθ)=i^(2θ/π)=cosθ+isinθ

と表せるので,実平面上における回転作用素は

  J^(2θ/π)=Ecosθ+Jsinθ

と表せる.

 たとえば,θ=π/6のとき,

  J^1/3=Ecosπ/3+Jsinπ/3=√3/2E+1/2J

     =[√3/2,−1/2]

      [1/2,√3/2]

実際,両辺を3乗すると

  J=[0,−1]

    [1, 0]

となることがわかる.実平面上における回転作用素は実数の行列なのである.

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