■病理形態学原論と・・・(その16)

 形態形成のバイオメカニズムについては,すでにダーシー・トムソンによる詳細な研究があり,その精緻な方法論は「生物のかたち」(東京大学出版会)に集約されています.本邦において,この種の研究を専門とする研究者は極めて少数であり,日本の形態学は非常に立ちおくれていると思っておりました.

ダーシー・トムソン「生物の形」東大出版会

 

 ところが,つい最近,諏訪紀夫「病理形態学原論」(岩波書店)を知るに至り大変な感銘を受けました.私の知る限り,諏訪先生の優れた業績はこの種の研究としてはもっとも完成度の高いもので,その理論的解析はすでに行き着くところに行き着いているという感さえあります.

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 [参]諏訪紀夫「病理形態学原論」岩波書店 にしても

  [参]ダーシー・トムソン「成長と形」東京大学出版会

にしても,確かに古くなってしまったところもあれば,明らかに間違っているところもある.それでもこれらの本の中心的なメッセージはいまなお意義を失っておらず,その幅広さ・大胆さ・野心的な志で幾世代もの科学者に自然界についての畏れと驚きの念を抱かせてくれる.だからこそわれわれは単なる受け売りにならぬよう,今日的な知識で絶えず補完し続けることが大切であるということを申し添えておきたい.

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