■病理形態学原論と・・・(その11)
【4】高次元の空間分割とミンコフスキーの舗石定理
高次元離散幾何学の視点から,平行多面体を再考してみる.切頂八面体には6組の平行な辺があり,6次元立方体と相同と考えることができる.切頂八面体の辺を点に縮めることによって,長菱形十二面体→菱形十二面体,六角柱→立方体ができる.すなわち,六角柱,菱形十二面体は4次元立方体,長菱形十二面体は5次元立方体,切頂八面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものとなっていて,空間充填図形の基本形は切頂八面体と考えることができる.
正方形や正六角形が平面充填可能な理由はそれが3次元立方体を2次元平面に投影したものとなっているからなのであるが,平行多面体の場合もそれらが6次元までの立方体を3次元空間へ投影した形だからである.このような見方ができるのは次元を上げて初めて見えてくるものがあるからであって,次元の効用と考えられるのである.
また,オイラーの多面体定理を使うと,2次元細胞の辺数の平均は≦6であり,すべての細胞が6辺以上の辺をもつことは不可能である,また,3次元細胞の面数の平均は≦14であり,すべての細胞が14面以上の面をもつことは不可能であることが証明される.2次元細胞の多くは6角形であり,3次元細胞の多くには14面体であることはわかったが,4次元,5次元,・・・,n次元での空間充填多面体の基本形はどうなるのだろう? どのような形になるのかを知る人は(たとえいたとしても)非常に少ないであろう.答えを先にいうと,
[1]n次元空間充填では,各頂点の周りに少なくともn+1個の多面体が集まる(ルベーグの舗石定理).
[2]n+1個のとき,ボロノイ細胞の面数は最大2(2^n−1)個で,安定な空間充填となる(ミンコフスキーの舗石定理).
ミンコフスキーの定理は2次元の安定な充填形は六角形,3次元では14面体,4次元では30胞体になるというものである.しかしながら,30胞体に関するこれ以上の高次元情報を得ようとするとそれを攻略するための新たな道具立てが必要となる.その詳細をこの紙面で紹介することは困難なのでどうしても抽象的な言い方にならざるを得ないが.実は多面体は「遺伝子」をもっていて,その解析アルゴリズムを適用することによって(多面体を見ずして),簡単に多面体情報を計算できるようになる.たとえば,切頂八面体の遺伝子は{33}(111)で与えられるが,そのfベクトル は(v,e,f)=(24,36,14)となること.4組(8枚)の六角形面と3組(六枚)の四角形面からなる14面体であること.3次元空間を充填するとき,各頂点の周りに4個ずつ集まること.1点に4個の多面体が会すると頂点や辺だけで接している多面体がなくなり,ボロノイ分割に対して安定となること,等々.
高次元多面体でも同様に計算可能となり,4次元30胞体{333}(1111)のfベクトルは(v,e,f,c)=(120,240,150,30)となること.5組(10個)の切頂八面体と10組(20個)の六角柱からなる30胞体となること.ケルビンの立体の4次元版で,各頂点の周りに5個ずつ集まることになること・・・といった類が解読可能となる.
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