■レムニスケートの幾何学(その141)

 ソリトンとは何か? 波は空間的に拡がったもの,粒子は集中したもの,波は重なり合い互いに通過する性質があるが,粒子は衝突して方向が変わるものである.ソリトンは両方の性質を備えもち,衝突しても形が変わったり壊れたりしない.

 現在の知識では,非線形性ゆえにソリトンがエネルギーを伝え,エネルギーの流れを高める役をしていると解釈される.津波や神経の電気信号パルスなどはエネルギーや運動が集中して安定化したもので,ソリトンと関係があるといえるだろう.

===================================

【1】非線形波動

 普通の波の理論(線形波動)では波の重ね合わせの原理が成り立つが,重ね合わせの原理に従わない波が非線形波動である.

 ソリトンは19世紀に発見されている浅水波を記述する非線形のKdV方程式の研究から始まった.1895年,オランダのコルテヴェーグとド・フリースは浅水波の運動を記述する方程式(KdV方程式)を発表した.これは1次元力学系を伝わる非線形の波動方程式である.

 KdV方程式の積分方法(逆散乱法)が発見され,この方程式は孤立波解と周期波解をもつことがわかった.孤立波解は

  η=Hsech^2√(3H/4h^3)(ξ−(v0H/2h)t)

で表される.波高の小さい浅水波は水深をhとして,v0=√ghの速さで進むのに対して,波高Hの孤立波はv=√g(h+H)の速さで進むことを示していて,ソリトンは小さな波よりも速く伝わることが明らかにされた.

 孤立波解がsech^2で特徴づけられるのに対し,周期波解は

  dn^2(2Kν)−E/K   (ヤコビの楕円関数dnと完全楕円積分K,E)

によって特徴づけられる.dn^2はsech^2の重ね合わせΣsech^2である.波の山に比べて波の谷が平たい波になるが,たとえば海の波は非線形波動の特徴をよく示しているのである.この波は楕円関数cnを用いて記述されるので,正弦波sinusoidal波にならってcnoidal波(クノイダル波)と呼ばれる.

 そして周期波の山を中央におき,波長を無限大にすれば非線形の孤立波を導くことができる(尺度変換).母数kが小さいとk→0の極限では

  snκ→sinκ,cnκ→cosκ,dnκ→1

であり,周期波は正弦波に近いのだが,k→1の極限をとると

  snκ→tanhκ,cnκ→sechκ,dnκ→cnκ→sechκ,E/K→0

となり,ソリトンの式になるのである.

 正弦波以外の周期的な波を見いだすことができるかという問題に対しては,ヤコビの楕円関数やテータ関数がその候補になるが,その研究が粒子性をもった孤立波(ソリトン)の発見に繋がったのである.現在,KdV方程式や非線形格子の運動をソリトンの集まりとして表す方法は逆散乱法だけでなく,いくつか考えられている.

===================================