■レムニスケートの幾何学(その114)

【3】テータ関数の応用

 ここのところやたらとΠの形の式がでてきましたが,テータ関数はヤコビの3重積公式

  Σq^(m^2)y^m=Π(1−q^2n)(1+yq^(2n-1))(1−yq^(2n-1))

にも結びついています.

 ヤコビの3重積公式は無限和と無限積を結びつける公式Σ=Πであって,その重要な応用として,

 (a)オイラーの五角数定理(1750年)

  Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2))   m(3m-1)/2は五角数

 (b)ヤコビの三角数定理(1829年)

  Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2)   (m^2+m)/2は三角数

など,加法的整数論の有名な公式があります.

 また,テータ関数が物理で果たしている役割について述べると,デデキントのイータ関数(重さ1/2をもつモジュラー関数)

  η(z)=q^(1/24)Π(1-q^n),q=exp(2πiz)

の双対性

  η(−1/τ)=η(τ)(−iτ)^(1/2)

との類似から

  Z(τ,z)=θ3/η

と定義すると

  Z=q^(-1/24)Π(1+yq^(n-1/2))(1+y^(-1)q^(n-1/2))

 分配関数Zは本質的にはθ3なのですが,それをq展開すると

  Z=q^(-1/24){1+(y+y^(-1))q^(1/2)+q+(y+y^(-1))q^(3/2)+・・・}

そして,Zの各項q^ny^sの展開係数はエネルギーn,電荷sをもつ状態がいくつあるか(多重度)を与える物理学上の母関数となっているのです.

===================================

 さらにこの式は超弦理論とも深い関わりがあるという・・・.ところで,1970年代,フェルマーの問題を征するために必要となるのが楕円曲線であることが明らかになりました.楕円曲線には,楕円曲線と三点で交わる直線で,そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき,二つの点の座標が有理数ならば,他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっています(群構造).

 楕円曲線はフェルマー予想の解決で注目された曲線で,楕円関数でパラメトライズされる曲線で,歴史的にいうと楕円関数は楕円積分を源とし,楕円積分の逆関数として導入されました.1994年にはワイルズがフェルマー予想の証明を完成させましたが,同年は超弦理論のサイバーグ・ウィッテン解が発表された年でもあります.そしてどちらの仕事でも楕円曲線が中心的な役割を果たしています.

===================================