■交角60°(その4)

 「3辺の長さが与えられたとき,平行六面体の体積は直方体のときに最大となる」ことは自明のように思われますが,これにはアダマールの定理という歴とした名前がついています.

 

 アダマールの定理は,平行六面体の体積はノルムの積によって上から抑えられるという非常に興味深い事実を示しているのですが,平行六面体の体積は直方体のときに最大となるといっても,読者はアダマールの定理のありがたみを実感し「なるほど立派な定理だ」と思うでしょうか? きっと何だか当たり前のことを大袈裟にいっていると感じるだけでしょう.

 

 それでは,「すべての辺の長さが等しい平行六面体格子(菱形体格子)をつくってみると,辺が互いの60°の角度をなすようにしたとき,平行六面体の体積は最小値となる」ことは明らかに誤りです。

 

 正しい問題設定は,「単位格子群の2つの格子点の間の最小距離dminを最大にする格子群(極大格子群)を求めよ」というミニマックス問題です.この問題は「同じ半径の球をできるだけ稠密詰めるにはどうしたらよいか」という空間の球による充填問題と密接に関係しているのです.立方格子をゆがめて,すべての辺の長さの等しい平行六面体格子をつくってみる.平行六面体も空間充填多面体の1つであるからである.

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【補】トレースと行列式

 固有多項式の根と係数の関係より,トレース(対角線の項の和)=固有値の総和,すなわち,

  σ11+・・・+σmm=λ1+・・・+λm

が成り立つ.トレースは全固有値の和であり,行列式は全固有値の積:

  |Δ|=λ1*λ2*・・・*λm

なのである.

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【補】固有値の意味

 ところで,固有値は幾何学的に何に対応しているのでしょうか? →単位キューブを線型写像で変換したときの各辺の長さと思えばよい.そうすると,行列式=体積=固有値の積であることが分かる.

 すなわち,行列式は平行六面体の体積であり,直交行列の行列式が直方体の体積になるわけですから,

  Πσii≧|Δ|   (等号は直交行列のとき)

は,アダマールの定理「3辺の長さが与えられたとき,平行六面体の体積は直方体のときに最大となる」にほかなりません.

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