■幾何的な等式と不等式(その13)
【2】エルデシュの不等式
三角不等式(R≧2r)は,より一般的には「△ABC内の任意の点Pから,各頂点までの距離をR1,R2,R3,各辺(またはその延長)までの距離をr1,r2,r3とすれば,
R1+R2+R3≧2(r1+r2+r3)
等号は△ABCが正三角形で,Pがその重心であるとき」
で与えられます.
これが「エルデシュの定理」で,この定理はR≧2rの一般化であると考えられます.エルデシュの定理は,簡単に
A(R)≧2A(r)
と書けますが,Aは算術平均の略で,Rの算術平均≧2(rの算術平均)という意味です.
エルデシュの定理は,算術平均Aを調和平均H,幾何平均Gに置き換えても成り立ちます.すなわち,
R1R2R3≧8r1r2r3
1/r1+1/r2+1/r3≧2(1/R1+1/R2+1/R3)
また,2次の基本対称式に対しては
R1R2+R2R3+R3R1≧4(r1r2+r2r3+r3r1)
も知られています.この種の不等式は美しい.しかし,証明は難しい・・・.
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【4】任意の多面体への拡張
A(R)≧CA(r)
の右辺の算術平均:A(r)をもっと小さな平均値,調和平均:H(r)で置き換えることを試みます
ωn=n/(n−2)・π/6 n≧3
を導入しておきます.球面上にn個の点を配置した場合,2n−4はn個の頂点をもつ三角形面正多面体の面数となりますから,△n=6ωn−πは単位球面が分割されてできる球面三角形の平均面積,また,球面正三角形の場合,2ωnは面積が6ωn−πの球面正三角形△nの1つの内角を表しています.
a)n個の頂点またはn個の面をもつ凸多面体の内接球半径rおよび外接球半径Rの間には,球殻不等式
R/r≧√3tanωn
が成立します.n=4のとき,ωn=π/3.したがって,
R/r≧3 (4面体不等式)
が得られます.
これを一般化すると,
b)単位球を含む,n個の面をもつ3稜頂点多面体において,球の中心から各頂点までの距離をR1,・・・,R2n-4とすれば,
A(R1,・・・,R2n-4)≧√3tanωn
c)n個の頂点をもつ三角形面多面体が単位球に含まれるとき,球の中心から各面までの距離r1,・・・,r2n-4とすれば,
H(r1,・・・,r2n-4)≧1/√3cotωn
ここで,A,Hはそれぞれ算術平均,調和平均を表しているのですが,等号は5つの正多面体に対して成り立ちます.
A(R)/H(r)≧√3tanωnは一般的に成り立ちませんが,しかし,A(R,q)をそれぞれの頂点における稜数qで重みづけをした算術平均,H(r,p)をそれぞれの面の辺数で重みづけした調和平均とすると,
d)三角形面多面体において
A(R,q)/H(r)≧√3tanωn
e)3稜頂点多面体において
A(R)/H(r,p)≧√3tanωn
が成り立ちます.
これらの不等式は,頂点数vあるいは面数fの与えられた多面体に関する不等式でしたが,稜数がeの凸多面体に対しては
f) R/r≧√3tan{e/(e−3)・π/6}
等号は正4面体に対してのみ成り立つ.
g) R/r≧tan^2{(e+2)/e・π/2}
は前式よりも一般的で精密で,等号は正4面体に対してのみ成り立ちます.
凸多角形ではv−e=0でしたから,n角形は必然的にn辺形になりましたが,凸多面体では
v−e+f=2
ですから,多角形の3次元空間への拡張は,頂点数v,稜数e,面数fがともに与えられることによって完全になります.そこで,多面体の平均面数,平均稜数をそれぞれ
p~=2e/f,q~=2e/v
とおくと,
esin(2π/p~)(tan^2(π/p~)tan^2(π/q~)−1)r^2≦S≦esin(2π/p~)(1−cot^2(π/p~)cot^2(π/q~)−1)R^2
e/3sin(2π/p~)(tan^2(π/p~)tan^2(π/q~)−1)r^3≦V≦2e/3cos^2(2π/p~)cot(2π/q~)(1−cot^2(π/p~)cot^2(π/q~))R^3
これより,内接球半径,外接球半径をそれぞれr,Rとすれば,球殻不等式
h) R/r≧tan(π/p~)tan(π/q~)
が導かれます.等号は正多面体に対して成り立つのですが,残念なことに,この式は証明が不完全で,予想にしかすぎません.
また,これらをひとまとめにすると
i) A(R,q)/H(r,p)≧tan(π/p~)tan(π/q~)
も予想されるのですが,・・・.
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