■幾何的な等式と不等式(その9)

【1】三角不等式

 

三角不等式というと「三角形の2辺の和は他の1辺より長い」が思い起こされますが,与えられた三角形の外接円の半径Rおよび内接円の半径rとおくと,

  R≧2r

となることを主張する,もうひとつの三角不等式を証明してみることにしましょう.

 

(問題)R≧2r   等号は正三角形のときに限る.

 

(証明)

 外接円と内接円の中心間の距離をdとおくとき,R^2−2Rr=d^2が成り立ちます(オイラーの定理).この関係式を導き出せば,ただちにR≧2rがわかるのですが,この関係式を導き出すことは見かけよりもやっかいで,ヘロンの公式を使ったほうがほうが簡単です.

 

 ヘロンの公式とは,任意の三角形の三辺の長さをa,b,c,面積をΔとして,

Δ^2=(2a^2b^2+2b^2c^2+2c^2a^2−a^4−b^4−c^4)/16

  =(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)/16

 

 ここで,2s=a+b+cとおくと

Δ^2=s(s−a)(s−b)(s−c)

となり,おなじみの平面三角形のヘロンの公式が得られます.

 

 外接円の半径Rおよび内接円の半径rをa,b,c,Δで表すと,

  abc=4RΔ       (正弦定理)

  (a+b+c)r=2Δ   (寄木細工定理)

ここで,

  s1=a+b+c,

  s2=ab+bc+ca,

  s3=abc

とおくとき,R≧2rは

  s1s3≧16Δ^2

  s1^3−4s1s2+9s3≧0

と同値.

 

 実際にやってみると

  s1^3−4s1s2+9s3=1/2[(b−c)^2(b+c−a)+(c−a)^2(c+a−b)+(a−b)^2(a+b−c)]≧0

b+c−a>0,c+a−b>0,a+b−c>0ですから,等号はa=b=cのときに限ることがわかります.

 

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